星になんか願わない -Ａ

2019/07/03 ページ45

「まあ…、異動の期間はそんなに長くはないと思う」

横尾さんはそう言うけど、もう私には２つの選択肢しか残ってない。

辞めるか、辞めないか。

どうしてなんだろう、うまくいかないな。

せっかく手に入りかけたばかりなのに、もうそれを手放さなきゃならないなんて。

１人きりの部屋にたどり着いた時には、もう夜も遅くなっていた。

シャワーだけ浴びて、ベッドに潜り込んだ。

辞めてもいいんだよ、仕事なんて。

でもこの仕事、意外に好きだったんだけどな。

なんかもう…、うまくいかない。

いい感じになりかけたら、こんな風に離されてしまう。

もしかしたら私達は、元々縁がなかったのかもしれない。

付き合ってはいけない運命だとか、そう思わされてしまうくらい、私達はうまくいかない。







日付が変わっても寝付けないまま、何度も何度もスマホで時間を確認してしまう。

何時間考えてみても、結論は出ない。

横尾さんの話では来月にはもう、向こうに行かなきゃいけないみたいなのに。

返事をするなら早くした方がいいんだけど。

不意に手に持っていたスマホが震え始める。

裕太からの着信を告げる画面を確認して、すぐに電話に出た。

「裕太？」

電話の向こうの裕太はいつもみたいに緩い口調で、

「起こしちゃった？」

と、遠慮がちに訊ねてくる。

「まだ起きてたから」

「今から行っていい？」

「今から？」

「カーテン開けて」

ベランダに出るカーテンを開けると、小さな人影が手を振っているのが見えた。








部屋に入ってきた裕太は、玄関先で無言で私を抱き寄せてくる。

「ちょっとだけ、このままでいてもらってもいい？」

強めに抱き寄せてくるその様子は、いつもの裕太らしくない感じで、１号でもないし２号でもない気がした。

その指先は氷みたいに冷たいし、普通じゃないってことはすぐにわかった。

何かあった？

そう聞きたいけど、そんな雰囲気じゃなくて。

私が裕太のことを避けたから？

でもきっと、そんな単純なものではないような気もする。

私達、これから、どうなっちゃうんだろうね。

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