星になんか願わない -Ａ

2019/07/02 ページ44

上司からは、横尾さんと同じように、

「お前、何しでかした？」

と、いきなり早口でまくしたてられ、予告通り台湾への異動を正式に告げられてしまった。

「この話って、断ることはできないんですか？」

「まあ、出来ないことはないけどその場合は…」

上司が言葉を濁したあたりで、さすがにわかる。

たぶん本社にはいられないんだろうな。







上司が出て行ったあと、横尾さんから告げられたのは、

「台湾支社は最近退職者が出て、日本から誰かを派遣してほしいって話が来てたから
どうしても嫌なら断ってもいいけど
でも、断ったら次の異動先は湾岸の倉庫だと思う」

というシビアな現実だった。

湾岸にある倉庫は噂ではけっこう過酷な現場らしくて、何かをやらかして左遷させられる異動先の筆頭に上がっている部署だ。

「Aの異動調査書の海外異動の欄にチェックが入ってたから、台湾になったらしい
もしチェックが入ってなかったら…」

「倉庫に直行だってことですか？」

「まあ、そうなるかもね
で、飯塚と何があったわけ？
飯塚はAにパワハラを受けたって言ってるらしいけど」

「パワハラなんかしてないですけど」

「知ってる
ちゃんと適切に指導してたのは、課内のみんなが知ってるから」







とりあえず、裕太と再び付き合うことになったことや、志穂ちゃんが裕太を好きなことなんかを簡単に話してみたけど、

横尾さんは納得できないって感じで、眉間に皺を寄せる。

「可愛い姪っ子がパワハラされてるって聞いて、左遷ってことね
でもAを海外へ遠ざけても、玉森が飯塚のものになるとは限らないだろ」

でも、志穂ちゃんの気持ちはわからないではない。

私と裕太を視界の中に収めていたくないんだと思う。

私達を見ていたら、いつまでも嫌な記憶が蘇るだろうし。

私だって２号が会社に戻ってきた頃は、その姿を見たくなくていっそのこと海外へ異動したいとまで思ったこともあるから。








横尾さんと話している間も、裕太から何度も着信があったけど、完全に無視していた。

今、裕太と会って何を告げればいいのか。

まだ自分の気持ちも定まってないのに、裕太には会いたくなかった。

『待ってるね』

そんなLINEが届いたのを見て、

『今日は遅くなるから、先に帰って』

そう返信して、スマホの電源を落とした。

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