星になんか願わない -Ａ

2018/08/31 ページ5

裕太と会わなくなって、１か月が経った。

この１か月の記憶が、私にはない。

何をしていたのか、何を考えていたのか、ほぼ覚えてない状態。

見かねた宮田くんや横尾さんが、飲みに誘ってくれたりしたけど、全部断ってたっけ。

１か月経った今、ようやく現実が見えてきた。

もう裕太はこの世にはいない。

いるけどいない。









「退院したらしいよ、玉」

久しぶりに宮田くんからの誘いに応じて、席に着いた途端にそんな報告を受けてしまった。

「そっか…」

不意打ちだったからか、そんな間の抜けた返事しかできなくて。

「会社に連絡があったみたい」

「退職するって？」

「退院の連絡だけ
とりあえず、会社は休職扱いになるみたいだけど···」

「だけど？」

「なんか…、こういう場合、向こうから退職の連絡がない限り、会社側からは退職にできないみたいで」

…ああ、なるほど。

会社側からしてみると、退職して欲しいんだろうけど、仕方なく休職扱いってことか。

「玉とはもう会わないつもり？」

宮田くんにしては珍しく、ストレートにそんなことを聞いてくる。

「だって、仕方ないじゃん
私のことも覚えてないし、裕太の姿をしてても、中身は全然違う人になっちゃったんだから」

強がって、そんなことを言ってみたけど。

でも口にしたら本当のことになりそうで、今まで口にしてこなかったんだ。









「玉には言った？
私は彼女だって」

「…言ってない」

「何で！？」

珍しく、宮田くんの語気が強くなる。

「宮田くんならどう？
記憶をなくして、知らない女の人が「彼女です」って現れたら
怖くない？」

「それはそうだけど…」

「それに、裕太に言われたんだ
『もう来ないで』って
知らない人が彼女面して病室に入り浸ってたら、確かに気持ち悪いよね···」

平静を装って言ったつもりだったのに、その声は意外にも寂しげな声になってしまった。

宮田くんはそれ以上、何も言わなくなり。

それからは２人の間で、裕太の話題が出てくることはなくなった。

酷い夏だった。

裕太はいなくなってしまったけど、彼はまだ生きている。

私の隣にはもういてくれないけど、同じ空の下、どこかで生きてるんだと思ったら、まだ救いがある。

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