星になんか願わない -Ａ

2019/06/20 ページ27

暖房の効いてない資料室はひんやりと冷たくて薄暗くて、今の私には何故かここが異常に心地いい。

資料室の端にあるデスクにパソコンを持ち込んで。

うちの会社はそういうの、けっこう自由で、

仕事さえやっていれば、休憩室だろうがカフェだろうが、どこにいてもいいんだよね。

ここで仕事を始めて、もう1週間になるけど。

落ち着き過ぎてやばい。

ずっとここに隠れてたいんだけど。







お昼前、のんびり仕事をしてたら、デスクの前の小窓がコンコンとノックされた。

驚いて顔を上げたら、そこには可愛らしい目をして微笑んでる裕太がいて。

コソコソと社内恋愛をしてた記憶が、一瞬だけフラッシュバックした。

すぐに現実には戻れたけど、鼓動が異常に速くなって、心が押し潰されそうになる。








資料室に入ってきた裕太は、

「来ちゃった」

とか、可愛らしい笑顔を見せる。

昔もよく言ってたよね、それ。

私が給湯室にいる時だとか、倉庫で探し物をしてる時に。

こそっと現れては、

「来ちゃった」

とか言いながら、バックハグしてきたり。

2号といると、そういうことばっか思い出されて辛いくなる。









「ここで仕事してんだ？」

裕太はパソコンの画面を、後ろから覗き込んでくる。

こういうのも、昔と変わってないよね。

変わってないくせに何も覚えてないなんて、神様はどんだけ私に意地悪をしたら気が済むんだろう。

「静かなとこがいいかな、って思って
ここだと集中できるから」

だから、適当に答えておく。

裕太と会いたくないけど、本当は会いたい。

だけどそんな期待を抱いたら精神を病んじゃいそうだから、あえて会わないようにしてるのに。








「金曜日の夜、飲みに行かない？」

これは…、どう断ったらいいんだろ。

当たり障りのない断り方を、頭の中で羅列していくけど、

「もう店とか予約しちゃったんだけど」

そう言われて、もう断る言葉が思いつかなくなってしまう。

「そうなの？」

「頑張って予約したんだよね
Aさんと行きたくて」

だから、そんなこと言わないでよ。

これ以上傷つきたくなくて、裕太と会わないようにしてるのに。

裕太と同じ顔をして、同じ声で、そんなこと言わないで。

2号に罪はないけど、もう一生会わないでいれば、裕太のことも思い出さなくてすむのかなって、そんなことばかり考えてしまう。

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