結 ページ32
色鮮やかな桜が風に吹かれ、
幾つもの花弁が儚く舞い落ちる。
遠くの方では大工たちが汗を拭いながら
家の解体を進めており、
その音が風に乗ってこちらまで届いている。
この樹はまだ、しばらく残されるらしい。
藤川殿がそう強く推薦したという噂を耳にした。
藤川殿は、拙者を責めることはしなかった。
ただ、よく走ってくれた、と。
それだけ言われた。
身寄りの無い彼女の葬儀は行われず、
直葬となり、遺骨は家族と共に眠れるようにと
栞や写真も含め、全てこの場に埋められた。
拙者はといえば、
数日は茫然自失のまま過ごしていたものの
次第に気力を取り戻し、桜が綻ぶまでここに通った。
彼女がいなくとも、日は昇り、世は廻る。
風が吹く限り、拙者の旅は続くのだ。
清心を百本届けるまで、
拙者は何度とここを訪れよう。
それは身勝手な償いであり、
拙く、熟れ損ねた感情への弔いでもある。
「……どうか安らかに」
合わせていた手を戻し、目を開け、立ち上がる。
────チリン、と。
聞こえた気がして、目を見張る。
急ぎ、巾着から鈴を手の平に取り出せば、
ひらりと花弁がやってきて、
鈴を撫でるように滑った。
「A……」
目の奥に熱を感じながら
ぎゅっと鈴を握り締め、満開の桜を見上げた。
ざあっと風に揺られて、花弁が舞い上がって
どうしてか胸がいっぱいになり、
思わず手を伸ばしそうになるのを堪える。
きっと伸ばせば、
帰れなくなってしまうだろうから。
「…………行ってくるでござる、A」
青い春に呑まれないよう、
振り返らず、ただ真っ直ぐと進む。
胸の空きを感じぬように、
脳裏の陰りを打ち消すように、
息を深く吸い込んだ。
きっと拙者は何度だって思い出し、
彼女のことを慈しむであろう。
そうしてこの想いを身に溶かし、
馴染ませていくのだろう。
それを、恋と呼べぬまま。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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ハイビスカス
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思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…( ; ; )最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります! (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Re: | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年7月19日 16時