二十五 ページ26
ハッと目を開ければ、
そこは薄暗い草原。
あんな風に不気味で、不吉な夢は
いつぶりであろうか。
煩い鼓動を感じながら
思い浮かべるのはAのこと。
なんだか嫌な予感がして、
居ても立ってもいられなくなり
寝起き早々、拙者は山を下り始めることにした。
辺りはまだ薄暗く、朝陽も昇っていない。
吐いた息が白むほどではないが肌寒く、
息をする度に肺が冷たくなった。
急ぎ足に来た道を戻りながら、
夢のことを思い返す。
あれが万が一、何かを示唆していたのなら
……Aの安否が心配だ。
正夢や予知夢の類いでは無いことを祈り、
風に逆らい先を急いだ。
──とはいえ、ここまで3日ほどかけて登ったのだ。
一直線に下るとはいえ、
一日でAの家まで戻るのは難しいだろう。
分かってはいるが、それでも懸命に駆けた。
杞憂であれと願いながら、祈りながら。
息を切らしても足を止めることはなく、
ろくな休息も取らぬまま進んだ甲斐あってか
日が暮れる頃には麓まで下りることが出来た。
疲労から足が震えたが、
もうAの家まではそんなに距離も無い。
善は急げという。
少しだけ膝に手をついて息を整えてから、
拙者はまた走り出した。
────風が、鉄と酒の匂いを運んでくる。
生ぬるく、非常に澱んだ空気を感じ取ったとき
ようやくAの家が見えてきた。
胸騒ぎが収まらず、
また呼吸の乱れからか上手く音が拾えない。
ただ、拙者がここを発ったときとは
全く違う空気が一面に蔓延っているのは確かで。
風が急かすように拙者の背中を押す。
そうして漸く桜庭家の敷地に足を踏み入れた。
──見慣れない笠が玄関に立て掛けられている。
やけに明るい屋内から、
何とも下賎な笑い声が三人分も聞こえていて。
しかし感じ取れるのは四人分の気配。
強い酒と、肉の焼ける匂いに紛れて
血の匂いが漂っている。
至って冷静を装って、
拙者はその戸を控えめに三回叩いた。
それでようやく拙者に気付いたのだろう、
やたら大きな笑い声がピタリと止み、
一歩、二歩と慎重そうに近付いてくる。
ヒソヒソと何かを相談しているようだったが
その声は、耳の敏い拙者には筒抜けで。
「どうする、殺っちまうか」
「顔を見よう。女かもしれない」
「食い物が増えりゃあ、僥倖だな」
「よし、俺が行こう」
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思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…( ; ; )最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります! (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Re: | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年7月19日 16時