二十四 ページ25
寄り道に寄り道を重ねた結果、
結局山頂を極めるまでに
太陽はもう二度ほど浮き沈みした。
頂きの空気は夜風も相俟ってとても澄んでおり、
頭の中をも空にしてしまう清さがあった。
これから先、拙者は稲妻を離れ
他国を巡る予定であった。
璃月には、雲をも絶つほどの山岳があると
聞いたことがある。
そこから見下ろせばこの山は
赤子ほどの高さしかないのであろうが、
拙者の人生では今が一番天に近づいている。
見上げれば幾千の星。
拙者はそのまま倒れるように
草原の上で仰向けになった。
「……春追いし 山の頂き 登り遂げ。星眺めれば 緑地に寝にけり」
うん、悪くない。
付近に動物の音はなく、
風も段々と弱まり、凪いでいく。
山に寝かし付けられているのを感じながら、
拙者はそのまま、ゆっくりと目を閉じた。
────夢を見た。
先程の夜景の中、拙者の横にはAが居て。
Aは風に靡く髪を押さえながら、
どこか、遥か遠くを見つめていた。
それから拙者の方を見て、
彼女は仄暗い、かなしい微笑みを浮かべた。
「────」
何かを発したようだが、その音は無く。
「────」
また拙者の声も、彼女に届くことはなかった。
彼女が踵を返し、一歩踏み出すと
途端に景色は溶けていって
代わりに桜庭家が炙られたように浮かび出る。
淡々と歩いていく彼女に視線を戻せば、
その片腕を巻き込むように
禍々しく黒い何かが纏わりついていて、
拙者は思わず刀の柄に手を這わせた。
彼女の倍ほどある大きな黒い靄は
どこか生物のような、人間のような風貌に見えた。
しかし、警戒する拙者を置いて
彼女は何も気にすることなく、
その黒い靄と共に家の方へと歩いていく。
歩幅が合わないのか、
彼女は半ば引き摺られているようだった。
どうしてか拙者の足は急に鉛のように重くなり、
彼女を追うことが叶わず、見送ることしかできない。
Aを向こうへ行かせてはいけない気がして
必死に名前を呼び、手を伸ばすが、
そのどれもが届かず虚を掻いた。
Aが桜庭家に入ると同時に
肥大した闇がAを完全に呑み込んで
戸がピシャリと閉まった。
最後、微かに鈴の潰れる音が聞こえてから
拙者の視界は暗転した。
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思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…( ; ; )最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります! (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Re: | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年7月19日 16時