十九 ページ20
驚き、困惑、嬉々、
色んな感情が入り混じった末。
彼女が出した答えは
「行けない」というものだった。
「一度、その幸福を知ってしまえば……もう知らなかった頃に戻ることはできません。私はそれが、恐ろしいのです」
「……そうであるか。軽率な提案をしてしまったでござるな」
「いいえ、いいえ……お気持ちはとっても嬉しいんです。ただ私は、もう一度、を求めてしまうでしょうから……」
ほんの少し涙ぐんだ声色でそう告げられる。
彼女にとっても苦渋の決断なのだろう。
それならば拙者が
これ以上誘ってしまうのは、酷というもの。
ただ、Aの気が変わったときは
いつでも付き添うということだけ伝えると、
「楓原さんは本当に、お優しい御方です」
と微笑み、頷いていた。
「来月まで、私はここに居ますので……いつでもまた、足を休めに来てくださいね」
「ああ、かたじけない」
「あっ、そうだ、お弁当を作ってもいいですか？」
「お弁当……でござるか」
「はい。楓原さんの好物を詰めますので、旅のお供にしてやってください」
拙者は今までに、
お弁当というものを食べたことがない。
旅の途中で食べるのは、
釣った魚や狩った小動物の肉を
自分で簡単に調理したものが多い。
町にいるときであれば、
食事処に寄ることもあるが
お弁当を買う、ということはしていなかった。
「ふむ……良いでござるな」
「でしょう？ ふふ、期待していてくださいね」
「うむ、よろしく頼むでござるよ」
高い山の上で、雲が流れるのを見ながら
お弁当を食べる──そんな想像をして
旅の再開がより待ち遠しくなった。
ただ、Aの願いを叶えられないことは心残りで
彼女との別れは、少しばかり寂しく思うが
出会いがあれば別れもある。
それが旅の醍醐味でもあるのだろう。
「お主には随分と甘えてしまったでござるな。感謝してもしきれないでござるよ」
「そんな、大袈裟です。それに私だって、楓原さんにたくさんのものを頂きましたから……おあいこです」
そう言った彼女の笑顔はとても愛らしく、
薄灯を反射して、透けた髪は艶やかで、
なによりも綺麗で。
人に対してそのような感想を抱いたのは、
それが初めてのことであった。
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思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (
レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…（ ; ; ）最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります！ (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Re: | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2022年7月19日 16時
