それを恋と呼べぬまま【万葉】完結

十 ページ11

「私じゃ手が届かないから、修理出来なくて困ってたんです。ありがとうございます」
「これくらい造作もないこと。礼には及ばぬでござるよ」



Aに足台を抑えてもらいながら、
天井の隙間に木板を貼る。


この家は来月には無人となり、
その後は取り壊されることが決まっているため、
完全な修理は不要。

故に、それまでの間を凌ぐための応急処置。
痒いところに手が届いた程度のことだが、
Aに少しでも貢献出来るならそれで良かった。


「それにしても、外……ふふ、思ったよりも風が強くて驚きました」
「ははは……あれは凄まじかった。しかし、何もお主まで出ることはなかったろうに」
「だって、楓原さんが……それになんだか楽しそうでしたし」


足台と継ぎ接ぐための木板は納屋にあり、
拙者はそれを一人で取りに行った。

そのときAから傘を授けられたのだが、
昨日よりも強くなった風には全く通用せず。

あっという間に傘はひっくり返り、
その傘が風を受けたせいで拙者が軽く吹き飛び。

それを見ていたAが慌てて、
拙者を助けようと外に出て、
軽い彼女は傘など無くとも吹き飛びそうになり。

一瞬の出来事であったが、
拙者たちとしては阿鼻叫喚で、必死で、
それが無性に可笑しくて、納屋から生還したあとは
二人でしばしの間、大いに笑い合った。



「蒲公英の種ってああいう気持ちなんでしょうか」
「っはは、確かにそうかもしれぬな」



雨に濡れたため、
Aを先にしてお互い風呂に入り、
そうしてようやく修理作業に漕ぎ着けた。


思わぬところで時間を取られたが、
修理自体は滞りなく進んだ。




途中、昼餉として食べたA特製のおにぎりは
中に鮭や昆布などが入っていて、
これまたやはり、絶品であった。

十一→←九

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