Story ページ4
髪を一纏めにしながら部屋へ向かうと、弓兵が質素な食事をテーブルに運んでいるところだった。
「む。髪を拭かずに出てきたのかね。全く、それでは髪が傷むだろう。そこに座れ。乾かそう」
そう言って椅子を引いた。実はこの弓兵、サーヴァントではなく執事か何かではないのか。
腑に落ちない表情で椅子に座る。
手を合わせて箸をとった。
少年が食べ物を食んでいる間に、弓兵はどこからかドライヤーと櫛を出して赤い長髪を乾かし始めた。
ゴォォ…という音だけ聞こえる。弓兵が何か言っている。ドライヤーの音で何も聞こえない。ただ咀嚼する。栄養が行き渡る。料理も出来るとは。ますます執事のようだ。
カチッとドライヤーの電源を落とす音が聞こえ、髪を梳かし始める。きっと、さっき言っていた言葉に無反応だったから少し不機嫌なんだろう。
「実に良い髪だというのに、勿体ないな…これでは宝の持ち腐れというやつだ。…いやしかし、こうして見るとますます少女じみている。」
少女、だと?
「俺は女じゃない…」
「じみている、と言っただけだ。」
「それでも俺に向かって言うんじゃない!」
音を立てて席を立つ。弓兵の真正面に身体を捻る。
「ならば、切るかね?」
は?眉をひそめた瞬間、弓兵は少年の身体を引き寄せ、得物を取り出した。
そして、後ろにいつもなびいていたモノが一瞬にして消え去った。
いつも下に向いていた赤毛が軽くなったからか、少し逆立つ。
後ろを振り向くと、絹のように髪が床に散らばっていた。
「ふむ、大分男前にはなった気がするが。」
人の気も知らないで。髪は魔力を持っている。髪が長ければ長いほど魔力を持つことが出来る。まぁ、女らしくなっていたのもこいつのせいだが。
とりあえず切られた髪に残っている魔力を吸い上げた。
途端に切られた髪は色を失った。
「気は収まったかね。それで不服というならば何もする余地はないが。」
「まさか。動きやすくなったし、どうせ伸ばしたいと思えば魔力を使って伸ばすことだってできるさ。大した問題じゃない。」
ふい、とそっぽを向いて答えれば、弓兵はヤレヤレといった感じで渋い顔をする。初日がこんなものでいいのか。今日はさっさと寝てしまおう。そうしよう。
「アーチャー、ご飯おいしかった。俺はもう寝るから、明日に備えてお前も早く寝ろ。」
切られた髪をつまみ上げて跡形もなく消す。
「了解した」
半ば呆れ気味に弓兵は応答した。
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作者名:白咲 アオン | 作成日時:2017年12月11日 20時