◇ ページ20
「頑張って、あと少しだよ」と滝に向かって声を掛けた。負けてほしくないと思ったのだ。まるで苦難に立ち向かう人間のようで、Aはメモもそこそこに鯉を応援する。
そんな彼女を、猫又達はふわりと笑うように見守っていた。
鯉は、見事に滝を突き抜け空に跳ね上がる。
空に抜けたまま、もう水の中には戻らなかった。
ぐんぐんと身体が伸びて、鱗と毛並みが生え揃う。それは、まさしく竜だった。
町ひとつぺろりと呑み込みそうなほど大きくなったその竜を、Aは口を開けたまま眺める。
「あれが、鯉だったものだ」と鴉天狗がAに言った。
「人間で言うところの『日常』から『非日常』に飛び出した存在。……Aにはあれがどう見えている?」
「かっこいい。それに、きっと強いと思う」
そんなAの返答に猫又がげらげらと笑いながら「そら竜だからなァ、強いだろうなァ」と言い退けた。
今さっきまで鯉だったはずのその竜は、空で何度も身体を確かめるようにうねり、そしてふわふわともっと高い空へと消えていく。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。空を駆け登る。
「彼の滝登りは始まったばかりなのかな」
「お? 良いこと言うな」
そんなふたりの妖怪に挟まれた文学少女に、小さく届いた声があった。
「応援してくれて、ありがとう」──聞きやすい若い男性の声だった。
Aにはすぐにそれが誰の声か解った。
空を駆ける若き竜に。小さく小さく、手を振った。
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かぁびぃ(駄作者)(プロフ) - 無気力アイスさん» ありがとうございます!!(*´ω`*)そう言っていただけて大変光栄です(*´・ω・`)bこれからも頑張ります!! (2018年4月5日 17時) (レス) id: f00a385698 (このIDを非表示/違反報告)
無気力アイス(プロフ) - 格好いいです!こういうのを探してました。 (2018年4月5日 16時) (レス) id: 5c8f78dfab (このIDを非表示/違反報告)
かぁびぃ(駄作者)(プロフ) - 森田菜々子さん» ありがとうございます!オリジナル作品がランキング入りしたのは初めてですので凄く嬉しかったです!\(^o^)/ (2017年11月26日 1時) (携帯から) (レス) id: 87e86307e6 (このIDを非表示/違反報告)
森田菜々子 - かぁびぃさん、ランキング最高4位おめでとうございます! (2017年11月25日 20時) (レス) id: 52dd8ac394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かぁびぃ(駄作者) | 作成日時:2017年11月24日 14時