9 城と侵食 ページ9
カルエゴさんの毎日のルーティンは、実に計算し尽くされたものだ。なんの綻びもない整ったルーティン。
彼という人そのものを表すような、美しさだ。
そんな彼の城に僕が入り込んでしまったのは、本当に良かったのだろうかと、ふと思う時がある。
増えたコップや皿、歯ブラシ、服、減りの早いシャンプーに歯磨き粉やゴミ袋。
2人で暮らすということは、一緒に住む人の性格や相性も大事だけど、それに伴い1人より明らかに増えるモノや事への対処を適切に行え合える相手か、も重要である。
1人が好きな人には、それが耐えられない人もいるだろう。
カルエゴさんは、多分1人でいる事が好きなタイプだ。むしろ人を避けているまである。
だから、普段の顔には絶対出さないけど、僕が負担になっていないか気になる時もある。
かと言って……今は向こうに戻る気は無い。
勿論こちらで骨を埋める気はサラサラない。いつかは戻る。戻らなければいけない。
ただ、今すぐではないということだ。
僕はもう少しの間、カルエゴさんの元で一緒に暮らしたい。お互いの譲り合える点を探し合いながら、少しでも長く気楽に過ごしたい。
僕が勝手にそう思ってるだけで、カルエゴさんはどう思ってるのかは分からないけど。
*
「A」
「はい?」
「これ処分しておいてくれ」
「でもこれまだ使えますよ?」
「新しいモノを買ったからな」
「こんなに綺麗なのに……」
「……じゃあ、やる」
「え?」
「お前が使えばいい」
「……で、では、遠慮なく……」
キラキラとした高級そうな腕時計。スタイリッシュで、洗練された印象の代物だ。こんなものを僕に譲るだなんて、物を大事にするタイプかと思っていたけど、そうでも無いのかな?
でも残念なことに僕に腕時計をしていくような場面はない。外出ないし。ただ眺めるだけになりそうだ。
僕は腕時計を空にかざす。
僕だけのもの。
それは僕がここで生きている証だ。少しずつ増えていく僕のものが、カルエゴさんの城にじんわりと侵食していく。
その様は、実に愉快だ。思わず笑みがこぼれる。
孤高の城の中に、じわじわと異物が入っていくのだ。
城に土足で上がり込んだのは申し訳無いと思う。思うが、やめるかと言われたら別だ。
彼の領域に、もっと足を踏み入れたい。
そんな邪な気持ちに目を瞑りながら、僕は暫く腕時計を眺めた。
そんな僕を横目でカルエゴさんがじっと見ていたことには、ついぞ気づかなかった。
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奏(プロフ) - 本編もおまけもとっても面白かったです〜!友達以上恋人未満の関係の設定がめっちゃ良かったです!作品制作お疲れ様でした!作者様の他作品も見させていただきます〜! (2023年2月25日 8時) (レス) @page37 id: 89231dfe0c (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ガスカさん» コメントありがとうございます!応援のお言葉本当に嬉しいです。とても励みになります! (2022年12月18日 20時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ガスカ - 続き楽しみにしています。頑張ってください!応援してます (2022年12月18日 18時) (レス) id: 59f6634a23 (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ルーミアさん» コメントありがとうございます!主人公の過去については、ゆっくり紐解いていきますので、気長にお楽しみいただければと思います! (2022年12月5日 19時) (レス) @page16 id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ルーミア - 昔に何があったのでしょうか気になりますね!次の更新頑張ってください!楽しみにしています (2022年12月5日 14時) (レス) @page15 id: 1c035b5819 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2022年11月18日 8時