30 唐突と沈黙 ページ30
Aが、帰ってこない。
どこへ行くとも聞いていないし、電話をかけても一向に出ない。
勿論家の中が荒らされた様子もなく、侵入者の形跡はゼロ。
ただ晩御飯だけは用意されていた。
いつも通り綺麗にされた部屋。そこになぜか、Aだけがいない。
まさか、外で何かあったんじゃ…
俺はすかさず、シチロウとオペラ先輩に電話をかける。あいつの知り合いは、俺の知る限りこの2人だけだろう。
しかし2人は揃って、不思議そうに
「聞いてないの/ないんですか?」
と言った。
なんだ、それ。聞いてないから電話してるんだろうが。
そして同じく言うのだ。サリバン様に、聞いてみろと。
何故そこであの人の名前が出る?
分からない。分からないが、嫌な予感しかない。俺は、急いで家を出た。
___
「…Aはどこです」
わざわざ自宅に行くのは嫌だったが、直接聞くほかあるまい。オペラ先輩に客間に通されて、理事長と2人きりだ。
しかし理事長は、窓の外を眺めて答えようとはしない。
痺れを切らして、もう一度問う。
「理事長…いや、
「んもう。人聞き悪い言い方しないでよ〜」
いつものお調子者の態度の影には、いくつもの黒い噂があるのを、俺は知っている。彼は底の知れない大悪魔だ。
「僕はただ、手助けしただけだよ?元の場所に帰りたいかって聞いたら、帰りたいって言うから」
「……なんだと?」
「だーかーらーAくんの意思なんだってば」
帰りたいと、本当にあいつが言ったのか。あいつが?
初めは元の世界に戻れるまでという条件付きだった。だけどそんなものなくても、Aはここにいるのだと信じて疑わなかった。だって、Aは…俺の…
「そんなに大事なら、もっと口に出したら良かったのに」
俺は迷わずケルベロスを出して、サリバンに殴りかかった。勿論その八つ当たりは、塞がれる。
「お手つきは1回だけだからね?」
「グルルル……」
「ほら帰った帰った」
「ッ貴方が、唆したんじゃないのか!」
「……随分と自分に自信があるんだねぇ。そこに見限られたんじゃないの」
冷たく言い放たれた言葉が、俺の心の深い所に突き刺さる。
…だとしても、黙って出ていくことはないだろ。
辛酸を嘗めたような苦い感情に、苛立ちが収まらない。俺は飛び出るように家を出た。
___
「素直じゃないよねぇ…2人とも」
「全くです」
99人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奏(プロフ) - 本編もおまけもとっても面白かったです〜!友達以上恋人未満の関係の設定がめっちゃ良かったです!作品制作お疲れ様でした!作者様の他作品も見させていただきます〜! (2023年2月25日 8時) (レス) @page37 id: 89231dfe0c (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ガスカさん» コメントありがとうございます!応援のお言葉本当に嬉しいです。とても励みになります! (2022年12月18日 20時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ガスカ - 続き楽しみにしています。頑張ってください!応援してます (2022年12月18日 18時) (レス) id: 59f6634a23 (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ルーミアさん» コメントありがとうございます!主人公の過去については、ゆっくり紐解いていきますので、気長にお楽しみいただければと思います! (2022年12月5日 19時) (レス) @page16 id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ルーミア - 昔に何があったのでしょうか気になりますね!次の更新頑張ってください!楽しみにしています (2022年12月5日 14時) (レス) @page15 id: 1c035b5819 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:南条 | 作成日時:2022年11月18日 8時