第二十八章 ページ31
Aは一週間たっても帰ってこなかった。
メールは毎日来ているし、「心配しないで仕事して」とアイツから言われれば、俺も素直に従うほかない。
今日も煙草をふかしながら仕事をしていると、樹が遂にキレた。
「父さん、部屋の中ではタバコ吸わないで!」
「……あ、嗚呼、悪い」
「どうせまた母さんのことでしょ!」
びく、と自分の背が不覚にも跳ねた。
「いや」と取り繕うように言っても、「嘘吐け!」と怒られる。
「父さん、ずっとイライラしてる。
元気ないのに強がって、それで何でも無い顔で仕事するから余計に腹が立つ」
「そう言われてもな。
でも、アイツからのメールは来てるんだぞ」
「それホントに母さんからのメール!?」
怒った勢いで彼は言ったのかもしれない。
だが、俺ははたと思い立ったのだ。
Aのことに固執しすぎて、何かもっと近いところ――
事の発端はまさか。
「……すまん、少し電話する」
「はぁ!?」
「怒ってんだよこっちは!」という樹を尻目に、まずはAに電話を掛けてみる。
電話は直ぐにぷつんと切れてしまい、電波の届かないところにいるというのを機械的なアナウンスで告げられる。
その後、俺は椿の家電に電話をかけた。
取ったのは給仕の女。
「嗚呼、柊様ですか?」
凛としたその声の相手は、Aが今ボードゲームをして遊んでいるということを俺に告げた。
ふぅ、と俺は息を吐く。
そうして、「できるだけ優しい声音で」こう聞いた。
「Dove hai preso il mio gatto?」
「……はい?」
電話口の相手は、驚いたような声を上げた。
「今俺の思いついた、短い異国の言葉だ。
そこにAも居るんだろ?
あいつはこの分野に関しては俺以上の博識だ。
あいつに聞いてくれても勿論構わない」
「……え、っと、あの」
狼狽える女。
絡まった糸が、するすると解けていくのを感じながら、俺は口元に笑みを滲ませた。
「聞かないのか?
……嗚呼、聞けないもんな?」
俺は今までで一番怖い顔をしていることだろう。
それも当然だ。
腸は沸々と煮え繰り返り、俺に今武器でも持たせれば一瞬にして殺戮の鬼と化すだろう。
俺は息を吸いこんだ。
「教えてやる。
お前らは【俺の猫を何処にやった】?
いや、でもあんたとの電話で大抵察しはついた。
これ以上は時間の無駄だから切らせてもらう。
……精々首を洗って待ってろ」
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空弥(プロフ) - 木の実☆(このみ☆)さん» 椿お嬢様あああああ(便乗)彼女はホントはいい子ですはい……。ありがとうございます!三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - アカツキ@鞠さん» ありがとん(ハァト)((某は三弾書いたでb (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - シェエラさん» ありがとうございます!ウルウルしてくださったんですか!?ほわあああ、嬉しい……。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - メロン大好き星人さん» ありがとうございます!私としても、書いてて面白い回でした。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
空弥(プロフ) - 桔梗さん» ありがとうございます!こんな作品を楽しみにしてくださるなんて……、嬉しい限りです。三弾、更新いたしましたので、今後ともよろしくお願いします。 (2018年10月27日 20時) (レス) id: 87c9fca00c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空弥 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/karaichi2422/
作成日時:2018年9月24日 15時