雪華 … Snow Crystal ６

Kanon：１０ ページ7

｢佐倉先生、今日もご苦労さまでした｣
｢あ、教頭先生、お疲れ様です｣

放課後…顧問をしてる演劇部の部活指導を終え職員室に戻ると、教頭先生がにこやかな笑顔で迎えてくれた

｢生徒から佐倉先生の演技指導は、プロ並だと聞いていますよ、秋の文化祭が楽しみですね｣
｢そうなんですか？なんだかお恥ずかしいです、でも、生徒達も一生懸命作品に取り組んでいるので、ホントに頼もしいです｣
｢ウチは由緒ある家庭のお子さんばかりですからね…多少やりにくい場面もあると思いますが、宜しくお願いしますね、期待していますよ｣
｢はい、出来るだけご期待に添えるよう指導させていただきます！｣

上司と交わす通り一遍の会話…
ココの生徒達は、甘やかされて育った裕福な家柄の子達ばかり…ハナから教師など尊敬の対象になど入っていない…よくて家庭教師レベルの位置だ

併設の女子大への内進も決まってるから、そこまで授業にチカラを入れることもしなくていい

彼女らにとって学校は時間潰しに最適なサロンの様なものだ…

やりがいも無く、ただ毎日を生徒達が問題を起こさないよう神経をすり減らすだけの日々…

私は、何の為に教師をしているんだろう…

持ち帰り仕事に必要な書類をバックに入れ、校門を出た…何か連絡はないかとスマホを取り出したけど、画面に目新しいものは無い…

そしてため息をつくのが、もう日課になっている…

来るはずのない着信を、私は毎日待ち焦がれていた…

《二度と君を見ることは無い》

会いに行ったマンションのエントランスで、雅喜に言われた《最後通告》

残酷な言葉だと思った

けど、日が経つにつれて分かってくる雅喜の優しさ…私がもう期待しないように、敢えてキツい言葉を選び、雅喜自身が憎まれ役を背負っていくコトを選んだ…

優しい雅喜…アメリカで困っていた私を助けてくれた日を今でも覚えてる…

高校の頃、黒崎の執着心に怯えていた私を救い出してくれた藤ヶ谷くん、最初は恋人同士のフリから始まったけど、私は直ぐに恋を覚えた…
けど、藤ヶ谷くんの目はたった一人のその人に注がれていて、私が入り込む余地などどこにも無かった…転校を余儀なくされ、想いを伝えることもなく、彼のコトを忘れられないまま年月が過ぎて行った…

だからアメリカで雅喜と出会った時、奇跡だと思った…この人は《北山くん》じゃなくて、私だけを見てくれる《藤ヶ谷くん》だと

でも、そう思っていたのは私だけ…
奇跡は起こらなかった…



｢あの…｣

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