雪華 … Snow Crystal ６

fuga：１１ ページ38

｢間に合うか、二階堂…｣

高速道路をカーチェイスの勢いで進んでいくオレの車…

車内の時計は、リミットまで30分を切っていた


イラつきが絶え間なくオレを襲う

｢絶対間に合わせます…｣

二階堂はハンドルを握りしめ、猛スピードで高速を突っ切って行く、少しのハンドルミスも許されない限界ギリギリの精神状態を、オレと宏光の為に必死で保ってくれていた

それは千賀と宮田も同じ…

過ぎていく一分一秒が、今の宏光の運命を変えていく…

こうしてる間にも、宏光に万が一のコトがあったら…オレのせいで、もし…

有らぬ想像がオレを精神的に痛めつける…

どうか無事でいてくれ…


必ず行くから…


｢…専務！港が見えてきました｣

高速の脇から見える、闇色の空間…ポツポツと点在する光が、ココが倉庫街であることを伝えてくる

ナビに従って港湾へ下りる…

松永から伝えられた《無双》所有の倉庫街は、
この中でも一番の外れの位置にあった

奥に進むにつれ、光は遠ざかり暗闇だけが迫ってくる…


ヘッドライトに映る人影…

誰だ…《無双》か……？

警戒を強めたオレの目に入ったのは


｢松永…？｣

光の消えた倉庫街、その中にただ一つだけ明かりが点いている建物がある

｢お前達はここにいろ、いいか、絶対に付いてくるな｣
｢でも…ッ｣

｢約束を違えたら、宏光が危険だ…来るな｣

少し離れた場所に車を止めさせ、オレはその明かりに向かって歩いて行った

｢早かったな…｣
｢アナタをお守りするのが私の役目です、２代目…｣

こんな状況でも、松永の冷静さは変わらない
オレを静かに見つめていた


｢アイツらの狙いはオレだ、オマエは来るな…｣

時計はタイムリミット５分前を指していた…

｢時間だ…オレは行く｣

建物に入ろうとしたオレの背後から、松永の声がした

｢…死にますよ、あなた…｣


ドクン…と心臓が鳴る…


｢それでもいい…、宏光がそれで助かるなら悔いはない…｣

アイツがこの先も笑って暮らせるなら…それで構わない…もうこの世界でしか生きられないオレは、どの道アイツとは交わることは出来ない…

オレの命でアイツを守れるなら…それで…


｢そうですか…何がそこまでアナタを動かすんでしょうね…｣

｢ｸｽ、…さあな、…松永、《如月》を頼む…｣



錆びた鉄の取っ手に手を掛け、重い扉を開く…



｢太輔坊…｣

｢松永、…あの日、オレを助けてくれて…ありがとな…｣

やっと言えた…
それだけを伝えて、オレは扉を閉めた…

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