雪華 … Snow Crystal ５

RONDO：２５ ページ10

｢ここホントにステキな店だね、オレご飯食べに行くのって大体近所の人ラーメンとか牛丼とかだからさ、こういうオシャレな雰囲気のトコ全然縁がないんだよね、新しい経験だ！｣

オレがそう言うと、佐倉さんはｸｽｸｽ…とキレイな声で笑った…高校の時と笑い方はあんまり変わってないけど、雰囲気はホントに大人びてキレイになってるな…と思った

｢そう？気に入ってくれて良かった、ココね、雅喜とよく来るの、頼んだメニューもね、雅喜の好きなものばかりなのよ、美味しかったでしょ？｣

佐倉さんの雰囲気が変わったように思えた…
雅喜さんの名前を、敢えてオレに伝えてくる様な口振りに、オレは自分の表情が強ばるのを感じた

｢…そう、…あ、なんかわかる…二人の雰囲気に合ってるよね、この店…その服にも…｣
｢ホント？だったら嬉しいな、あのね、このワンピースも雅喜が買ってくれたの｣
｢…うん、良く似合うよ…佐倉さんの雰囲気にピッタリだね…｣
｢ありがとう｣

屈託の無い笑顔のハズなのに、その笑い方は…とても固く冷めて見えた…

｢…北山くん…｣

ワントーン低い佐倉さんの声が、オレの耳に届く…鼓膜がそのトーンの変化を気持ちの変化に変えたコトを知らせてきた

｢ん、…なに？｣
なぜだか…佐倉さんの顔を見ることが出来なくて、オレは目の前に置いてあるコーヒーカップに視線をを落とした

｢北山くんが今でも好きなのは、藤ヶ谷くんよね…？｣
｢…え……｣
｢藤ヶ谷くんは、北山くんのコトをずっとずっと好きで…その気持ちのまま亡くなったのよね…｣
｢佐倉さん…？｣
｢その藤ヶ谷くんを忘れて、他の人を好きになるなんてコト、有り得ないよね？｣

思わず顔を上げたオレの視界に真っ直ぐに入ってきたのは、オレの動揺を確かめているような佐倉さんの大きな瞳…

｢雅喜は私のよ…顔は似てるかもしれないけど、彼は藤ヶ谷くんじゃない…北山くん、それ分かってるよね…？｣

静かな…けど、ソレは佐倉さんの強い意志が現れてる口調だった

雅喜にこれ以上近づかないで…

言外に含まれた彼女の想いが、オレの表情を奪って行く…

｢佐倉さん！オレは…｣
言いかけた言葉は、彼女に遮られた

｢北山くんはズルいよ…ッ、７年前も藤ヶ谷くんを私から取り上げた…私もあの時は仕方ないって諦めた…でも今は違う！雅喜は私の恋人よ、絶対にアナタには渡さない…もしも雅喜を好きになったりしたら、アナタを軽蔑するわ…そんなの、藤ヶ谷くんが可哀想過ぎる｣

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