雪華 … Snow Crystal ５

RONDO：２１ ページ6

｢松永が、優しい？｣

例え天地がひっくり返る日が来たとしても、自分が松永を優しいなどと思う日は絶対に来ないと断言できる！

そんな思いで、目の前に並んで立ってる三人を見渡すと二階堂が僕を見てきた

｢…優しいです、松永さんがいなかったらオレ…きっともっと酷い人生送ってました｣
｢オレも…松永さんに会わなかったら、多分誰かを恨んでばかりの毎日を送ってました…｣
｢オレの親は、松永さんがいてくれたから助かったんです…｣

三人がそれぞれに松永への感謝を口にする
その光景は、自分には相当に衝撃だった

｢ソレは錯覚だ…そうじゃなきゃ松永の計算だよ、騙されてる、三人ともアイツに…｣
｢違いますッ！｣

目を覚ませよ…と諭す僕に、千賀が食ってかかるように否定の言葉をぶつけて来た

｢…あの人、…松永さんは自分がホントに酷い過去を背負ってるから、オレ達みたいなはみ出しものにも優しくしてくれるんです…専務は、松永さんの背中の彫り物…見たことありますか？｣

｢彫り物…？｣
｢知らないですか？…松永さんの背中には、龍が対で入っています…ソレは、背中にある傷を隠すためと…過去を封印する為だそうです…松永さん、子どもの時に母親の再婚相手から酷い仕打ち受けてて…背中、その時付けられたキズでいっぱいなんです…｣

｢オレも知ってます…死ぬよりツラい毎日だったって…だけど、お母さんがその人のコト好きだったからガマンするしか無かったって…一度だけ酔った時に教えてくれました…お母さんだけが唯一の自分の家族だから…どうしてもツライって…言えなかった…って…｣

｢けど、そのうちその男、お母さんにまで手を出すようになって…松永さん必死でお母さん助けようとしてその男に向かって行ったけどまだ子どもだったからめちゃくちゃ殴られて…どうしても助けられなかったって言ってました…誰も自分達を助けてくれない、だから強くなりたかったって…｣

｢独り立ちできる中学卒業まで、松永さんその家で歯を食い縛って耐えたそうです…お母さんを置いて出ていけないからって…やっぱり高校には行けなくて…中学出て直ぐに住み込みで工場で働くようになったけど、お母さんが気になって戻った時…その男が錯乱してお母さんを……松永さん、それ以上は何も言いませんでした…｣


三人がそれぞれに伝えてくる松永の話は、僕には初めて聞くものばかりだった…あの酷薄で冷淡な松永にそんな過去が…？

黙り込む僕を、三人が見つめていた…

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