雪華 … Snow Crystal ５

Kanon：２ ページ48

｢雅喜…良かった、気が付いたのね…｣

霞む視界の向こうから、細い輪郭の顔とホッとしたような声が聞こえた…

瞬きの回数を増やすと、その朧気な輪郭に表情が加わり《ユリ》であることを教えてくる

｢ユリ…どして……？｣
｢ん？…二階堂くんが、アナタに月曜日の予定のコトでＴＥＬしたけど全然繋がらないって龍樹に伝えてね、様子を見に行けって言われて、ココに来たら雅喜倒れてるからビックリしたわ…一通り診察したけど、どう？まだ気分悪い？｣

額に置かれた手は、フワリと柔らかく優しい手だった…

｢…いや、もう大丈夫…心配かけてゴメン……今何時…？｣
｢もう、夜が開けるよ…相澤に予約入れたから、一応精密検査しようね｣
｢…いい、なんとも無い…｣
｢ダメよ、あなた脳腫瘍の手術してるんだから…｣

｢してないだろ、…そんなの…｣

チラリと顔を見たオレを、ユリが限界まで目を見開いて視線を返していた

｢雅喜……アナタまさか…｣



｢ユリ、雅坊気が付いたのか？｣
ノックも無しにドアが開き、いつもよりラフな服装の松永が入ってきた

｢え、ええ…今気付いたわ…ね、雅喜｣
｢……｣

返事をしないオレを、松永が無表情で見てくる

｢特に問題は無いのか？｣
｢そうね、…精密検査してみないとなんとも言えないけど、今は落ち着いてるわ…｣
｢そうか、ならいい…オレは戻る、雅坊のコトは任せたぞ……雅坊、誰と会っていたのかは今回は詮索しません、ですがくれぐれも《如月》の跡目のお立場を弁えた行動をお願いします、私も忙しい、アナタの尻拭いやお守りばかりはしていられない、今後は自重して頂くように｣

ウンザリした表情を隠すこともせず、オレを一瞥するとユリになにか目配せをする

｢…了解だ、ならさっさと帰れ…｣
｢結構、では失礼…ユリ、わかってるな…｣
｢はい…｣

そのまま松永は部屋を出ていった、続いて玄関を出る音が聞こえ、部屋はまた静かになった

ユリはオレから離れ、暫く窓の外を見つめていた…やがて、小さく息を吐く音が聞こえ、ユリはベッド脇に腰を下ろした

オレと目が合うと、微かな笑みを浮かべた

｢…太輔…よね？アナタ…｣
｢ああ…｣

挑むような視線を向けるオレに、ユリの表情が堪えきれなくなったように歪んだ…

｢…ゴメンなさい…、太輔…｣

声を震わせ俯くユリに、オレは湧き上がる激しい怒りを全身にぶつけた


｢なんだよソレ…謝って済むコトじゃねぇだろッッ！！何でこんなコトしたんだよッ！｣

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