雪華 … Snow Crystal ５

Kanon：１ ページ47

結局、北山さんの後を追うことも出来ず自宅に戻ってしまった…

何をしに行ったんだろう…
ずぶ濡れのまま泣いてる人をそのまま返してしまった後悔と自己嫌悪だけが今の僕の感情の全てだった

着替えをする気にもならなくて、湿り気を帯びた服のままソファにカラダを沈めた

ズキズキと痛むこめかみ

どうにか治めようと額を覆うように手を持っていくと、左手のバングルが目に入る

左手……

《キズあるだろ？高校の時、オレを庇って付いたキズ…》


そっと開いた掌…
確かに、真ん中に薄くはなっているけど縫い跡がある

《たいすけ…》

北山さんの声なき声が聞こえたような気がして
ドクン…と心臓が大きな拍動を打った

どこかで付いたキズだとは思っていたけど、術後の記憶障害が残っていた僕は、今までさほど気にも留めていなかった

このキズが、もしホントにそうなら…

────────ッ…

僕は……一体誰なんだ……ッ！？


まさか、…本当に《たいすけ》なのか？

行き過ぎた想像を打ち消すように、僕は頭を振った


｢オレは、あの日からオマエしか見てない…｣

あの人の悲しく切ない呟きとその表情が、僕の記憶から離れてくれない

｢太輔じゃないなら、いらない…｣


違うよ、イヤだ僕を見て……僕は……────

雅喜…太輔……僕は……オレは……ッ…


｢……ッッ…ってぇ…｣

こめかみを襲う痛みが増してきたような気がして、寝室に行こうとソファから立ち上がった瞬間、アタマの奥からの強烈な痛みが全身を駆け巡った

膝から崩れ落ち、フローリングの床に蹲るように倒れ込む…

続く喉の奥が閉まってくる感覚に、恐怖すら覚えた

喉元に手をやり、無理やり押し広げようと自分の手で掴んだ、だけど息苦しさは変わらない
どころか、益々酷くなる

｢ゲホッ……ッヤバ…っ、息、出来ね……誰か…｣


ジャケットの胸ポケットにあるスマホ…固まってしまったような指先でどうにか抜き取ると、襲う痛みと遠のく意識を感じながら握りしめた

｢…ﾊｧ…ﾊｧ……ックソ……っマジかよ……｣



ヤバい…

カラダ…動かねぇ……


強ばっていくカラダ……次第に目の前が暗くなっていく…


……死ぬのか……オレ、このまま……







アイツが、待ってるのに……



雪の結晶…


見せてやる……って…



雪の中…





オレが迎えに行くのを、



待ってるのに……────

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