雪華 … Snow Crystal ５

RHAPSODY：７ ページ21

｢…前髪…伸びましたね…目に入りそうです…｣

春の日差しに似た笑みを浮かべ、雅喜さんは長い指先でオレの髪を斜めに流す様に整えてくれた

吸い寄せられるように、その笑顔を見つめてしまう

指先が微かに額に触れ、その部分だけが少し熱を帯びた様に思えた、そしてその熱は次第に頬にまで及んでくる、思わず目を逸らし下を向くと、｢宏光…｣と呼ばれた

不意に名前で呼ばれたコトに戸惑い、俯いたままでいると｢顔見せて…｣と声が降ってきた

その声はとても静かで…その声音がオレを少しだけ不安にさせた

顔を上げると雅喜さんの瞳とぶつかる…
口元には確かに弧を描いているけど、その瞳は別の感情を抱いているように思えた

｢雅喜さ…｣

｢あのぉ専務、めっちゃ名残惜しいのはわかるんスけど、ちょっとオレ的に目のやり場に困るっていうか…｣

二階堂くんのちょこっと呆れたような声が、オレの言葉を遮ってきた

雅喜さんの表情もガラッと変わり、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、二階堂くんに目を向けた

｢あ、悪い…じゃ二階堂頼むね、必ず自宅まで送り届けてくれよ｣
｢ラジャ！、じゃ出しますよ…あのさぁアンタ窓閉めるから…｣

雅喜さんの見せたさっきの表情が何だか気になって、オレは窓に手をかけたまま振り返った
ソコにあるのは、いつもの《如月雅喜》特有の品のいい笑顔…

パワーウインドウが上がり、車は地下駐車場から外へ出た

フルスモークだからか、外の光は入ってこない…


ハァ…とため息を付くとフロントミラー越しに二階堂くんと目が合った

｢…アンタさ、一体専務のナニ？｣
エレベーターの中で聞かれたことをもう一度尋ねてきた

｢……｣

オレにもよく分からない…と無言の返事と目線で答えると

｢まあ、見てれば分かるけど…どっちかっつーと専務のがアンタに片想いっポイよね｣

とか、大真面目な顔してそんなコト言ってくる
｢…片想い…って…｣

｢あの菜月って人に向けてた顔と全然違うもん…アンタを見る専務の目…すげぇ優しくて寂しそう…、ねぇムリなの？｣

｢ムリって…どういう…｣
｢専務、めっちゃいい人だよ、アンタなんで好きにならないの！？｣

は？何言ってんだコイツ、人の気も知らないで…

｢あのなぁ！好きになれって…そんなカンタンに言うなよ！オレにだって色々あんだよッ！そんなの…｣

｢なんで？好きになるのに理屈なんかいんの？なんもかんも全部とっぱらって、ただその人が好き、それでイイじゃん！｣

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