雪華 … Snow Crystal ５

RHAPSODY：１ ページ15

寝入り端の微睡みの中…

枕元に置いてあるスマホの微かな振動と点滅する光が、オレの意識を元に引き戻した

ボヤける視界と意識を繋げ、ゆるゆるとスマホに手を伸ばす…念のための目覚まし時計、日付けはもうとっくに変わっていて起きるまでの残り時間の方が少ないくらいだ

｢…ナニこんな夜中……、まさか生徒…？｣

そう思った瞬間目が覚めた、
スマホを引っつかみ、画面に目をやると表示されてる名前は

《佐倉菜月》

｢佐倉さん？｣

スグにタップして耳に当てると、繋がったコトが分かったのか｢北山くん…｣と、小さな声が聞こえた…

｢どうしたの…こんな時間に、なにかあった？｣

問いかけの返事は無く、その代わりに鼻を啜る音がした…泣いてるんだ…

｢佐倉さん…オレ、分かる？北山だよ…オレに掛けてきたの？｣

ひとまず何でもいいから声を出させたかった
TELの向こうは、物音一つしない…聞こえてくるのは…押し殺したような啜り泣く声だけで…

｢…れちゃった…｣
｢え、なに？｣

｢雅喜に…別れてくれって…言われちゃった…｣
｢…ッ、なんで…ッ？｣

思ってもみなかった話に、オレは絶句した
そのオレの反応が伝わったのか、佐倉さんが微かに鼻で笑うような声を漏らした

｢…アナタがいるからでしょ…｣
静かな…けど激しさを奥に秘めた怒りが短いその言葉の中に溢れかえっていた

｢…嬉しい？ﾌﾌ、藤ヶ谷くんも雅喜も、北山くんしか要らないんだって…私は邪魔みたい…ｸｽｸｽ…じゃあね、それだけだから…｣

小さく笑い声を立てる佐倉菜月に、オレは背筋を駆け上がる感情を覚えた
このままTELを切らせるわけにいかない…
不気味な気配が、TELの向こうに漂っていた

｢佐倉さんちょっと待って、オレの話を…｣
｢泥棒！！｣

蔑むように投げつけられた言葉に、思考が止まった

｢…アナタなんか要らない…藤ヶ谷くんの代わりにアナタが消えればよかったのよ…そしたら…誰も傷つかなかった…雅喜だって……ッ、アンタなんか大ッキライッ！｣

泣き叫ぶ佐倉さんの声が、オレの鼓膜からアタマの中に悲壮感を伴う感情ごと沁みていく…

そしてその想いをオレの全身に巡らせる…

《泥棒》
《藤ヶ谷くんの代わりに…》

耳に当てていたスマホが、いつの間にか手から滑り落ち、床に乾いた音を立てた…

手を伸ばすコトすら億劫で、オレはそのままベッドに突っ伏した…


｢…たい、すけ……ッ｣



真っ暗な部屋は、今のオレの世界と同じだった

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