I wish to be your only one … Re:turn ２

Re:８６ ページ40

病院から戻ったオレは、所長にその話をすべくTELを掛けた

休みにも関わらず、家に来なさいと言う言葉に甘え、オレは自宅を訪ねた

自然素材を用い、来客にもてなしの気持ちを十分に感じさせるゆったりとした創りのリビング…
何となく…鎌倉の自宅に似てる気がした

所長には南條さんから聞いた話と、実際に自分が見た《葉山章太郎》の現状を話した

黙ってオレの話に耳を傾けていた所長は、オレが話し終わると

｢…そうか、利き手の右手が使えないのは本人も辛いだろう｣

と落胆したような大きなため息ついた

同じ建築デザイナーとして、今までと同じ様に仕事が出来ない戸惑いや苛立ち、そして部下を抱える経営者としての不安は、誰よりも分かり合えるんだろう

所長の表情が曇ってくる

｢そうですね、本人は何でもないように言ってますが、凹んでるのは間違いないです｣
｢…《HAYAMA design company》に戻ることに反対はしないが、残念だ思う気持ちはかなりある…きっと宏光は特にね、まだ話してはいないんだろう？｣

｢はい、まずは所長に…と思いましたので｣

自分の中の迷いが消えないと、チーフには言えないから…

所長は何度か頷くと、優しい笑顔を浮かべオレを見た

｢宏光には堂本くんからの依頼で君を預かる…と伝えたが、君をウチに頼めないか…と相談してきたのは他ならない葉山氏だ、前の事務所で酷く傷付いた君を見て、とても心配していた…たった一人で何もかもやろうとするキミを見ていると昔の自分を見ているようで胸が痛むとね、一人で出来ることなど限界がある、特にこの仕事はハコが大きければ大きいほどチームワークで立ち向かわなければ良いものは創れない、独りよがりでは誰かを幸せにする建物は作れないから、ソレをウチで教えてやってほしい…と言っていた｣

｢オヤジが…？｣

｢そうだよ、君と宏光でコンビを組んだ作品を、これからも見てみたかったよ…率直に残念だ｣
｢ありがとうございます、そう仰って下さるだけで、コチラの事務所に来れて本当に良かったと思っています｣

仲間は全て敵だと思っていたオレに、チームで仕事をすることの楽しさと大切さを教えてくれたこの事務所の人達…束の間だったけど、ここで得たものはとても尊く、純粋にこの仕事を選んだことを誇りに思えた

｢いつ戻るか決めているのかな？｣
｢…父の退院に合わせようと思っています、丁度仕事のキリもつきますので…一番いいかと｣


｢そうか、…もうどこにも迷いは無いんだね｣

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