雪華 … Snow Crystal ３

１４１話 ページ49

｢あんな少年のコトなど捨て置いていれば宜しいのです、今はアナタの命…引いては《如月》の命運がかかっています、さあ、アナタは私と来るんだ！｣

ここまで来て、尚も影のオレを《如月》という血塗られた場所に引き摺り出そうとする松永に、最後の怒りが爆発した

｢ふざけんなっ！《如月》がどうなろうとオレの知ったことかよっ！出ていけ、…そしてもう二度どオレの前にそのツラ出すなっ！テメェを見てると、虫唾が走る…｣

侮蔑を込めたオレの視線を、松永は酷薄冷淡な表情で見つめてくる…およそ、人間の温かみなど感じられないまるでアンドロイドの様なその顔…

｢…アナタという人は…仕方ありませんね、ご無礼、お許しください…｣
｢…離せっ…ッッ！！｣

掴まれた腕を振りほどこうとした次の瞬間、鳩尾に入る強烈な痛みと止まる呼吸がオレの動きを止めた

そして口に何かが当てられ、嗅いだ途端に意識が灰色から黒に染まっていく…

宏光……──

薄れていく意識の中、最後に見えたのは…愛しい人の柔らかな優しい笑顔だった…


宏光…ゴメンな…───
雪の結晶……もう、見せてやれない…

オレを許してくれ……───






｢…っ、太輔…──？｣

太輔の声が聞こえたような気がして、オレは駅から外に出た…


待ち合わせの駅…

約束の時間は、とうに過ぎていた…


スマホを握りしめ、オレは来ない連絡を待った…

外は雪だ…いつの間にか本降りになった雪が、足元の道に淡くまだら模様を描いていた


冷たい北風が、頬を通り抜ける…

確認する様に、オレは太輔の番号をタップした

《お掛けになった電話番号は、現在使われ…》

もうこの機械音声を何度聞いただろうか…ホンの数時間前までこの番号はオレと太輔の今を繋いでいてくれたのに…


最初に聞いた時は、何がどうしたのか混乱してしまって、思わず太輔の家に行きかけた

けど、もしその間に太輔がココに来たらと思うと、やっぱりこの場所から動けなかった

絶対来てくれる
ココで待っていれば、太輔は必ずオレを探しに来る

約束したんだ…雪の結晶、一緒に見ようって…

ずっとずっと、一緒に……来年も再来年も、記念日は一緒にいようって約束……

｢太輔、寒いよ…早く来て……｣

マフラーをしても関係ないほど、目の前の世界は寒々とした色を帯びていた

立ちすくむ足元はいつの間にか真っ白に染まり、なお一層染み込むほどの寒さを伝えてきた

来る…
太輔はきっと迎えに来てくれる…







｢ミツ…｣

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