雪華 … Snow Crystal ３

１３５話 ページ43

｢宏光…｣
｢コレさ、香りもないしベタベタもしないから、そんな気になんないと思う…｣


何も言わず、またクリーム継ぎ足してゆっくり塗ってくれる…

キズになってる場所は、指先でそっといたわる様に触れてくれた

こんな短時間のケアでも、指を曲げた時の響くような痛みが取れていた

｢ん、だいぶイイ感じかな…じゃ反対側も…｣

その笑顔に、されるがままのオレ…


左手にも丁寧で…優しいケアが施される

手の甲にクリームを塗り込み、掌を返させた時、宏光の顔が少しだけ痛身を感じたように歪んだ

｢…キズ、残ったまんまだな…｣

黒崎とのやり取りで付いたキズは、抜糸のアトもまだ残っていた

掌の真ん中に縦に付いてるキズは、宏光と心繋げた日の《証》であり、オレには大切な思い出の《シルシ》になっていた


｢太輔の手…好きだ…｣
｢宏光…｣

｢オレと同じ手なのに、お前の手はとっても大きくて優しい…そして涙の味がする｣
｢涙……？｣
｢泣いてるトコ…誰にも見せないようにこの手で隠して…掌に涙吸い取らせてきた……オレには分かるよ…｣

そう言って、宏光はオレの両手を取り掌にキスをした

｢…宏光｣


｢ずっと一緒にいような…今年のクリスマスも来年もその先も……大切は日には２人で一緒にいよう…約束な｣

｢ずっと…一緒に？｣


親父が亡くなった日…

親父の亡骸と２人で一晩過ごした…



まるで眠ってるような親父の顔が…もう自分に微笑みかけてくれることがないんだと分かった時、胸が潰れそうに苦しくなった

｢オヤジ…起きろよ……っ、起きてよっ父さんッッ！…お願い、オレを一人にしないで…ッ！！ずっと一緒にいるって言ったのにッッ！何でだよ……父さんの嘘つき…ッ！｣

そのカラダにむしゃぶりついても、揺さぶっても親父の表情は変わらず…力なく投げ出された冷たい手を握りしめてオレは泣き叫んだ


もう、オレには誰もいない…

この先もずっと…光の当たらない影の存在として生きていくんだ…


絶望と孤独を嫌というほど感じたあの日が、オレの記憶から戻ってくる


宏光、ホントに…？


｢どこにも行かない…？約束してくれる？｣

｢約束する、もうオマエは一人じゃないから…｣


そっと差し出される小指…


互いのその先にある赤い糸を結ぶ様に、オレ達は小指同士を結んだ




もう二度と解けないようにと、願いながら…

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