l wish to be your only one …エピ４

ヒカル…５ ページ6

え、ベビーカー…？

急ぎ足だったオレの歩みは、足首を何かに捉えられたように速度が落ちる…


腕時計を見ていた太輔が、ふとコッチ顔を向けオレを見つけると、満面の笑顔でオレに手を振り、隣のベビーカーから、大切そうに小さなカラダを抱き上げた…



オレの足が止まる…


もし太輔が抱き上げたのが、子犬か子猫だったら、オレは即座に傍に駆け寄って一緒にその子を自分の腕に抱くだろう…けど、数メートル先で太輔の胸にちんまりと収まってるのは、紛れもなく人間の赤ん坊だった…

その小さな顔に頬をくっつけるようにして、太輔はオレを見ながら、赤ん坊に何か話しかけてる…

そして、その場に固まって近付いてこないオレを不思議そうに見つめると、

「ひろ！コッチ」
て呼んで、手招きしてきた

赤ん坊も、太輔につられたのかオレに顔を向けてきた…



どうすりゃいいんだよ…今オレ、どんな顔してんだ…


オレの頭には、飛行機の中で見た悪夢とも言える残像が、まざまざと戻ってきていた…


《子どもが欲しい……》

夢の中の太輔は、オレにそう言った…
アレは、正夢だったのか…？


…だとしても、ここに止まってるわけにもいかねぇよな


オレは覚悟を決めて、スーツケースの持ち手をこれ以上ないくらい握り込み、二人に近づいていった


「お疲れだったな、ひろ」

そう言ってくれる笑顔は、拍子抜けするほど、今までと全く変わり無くて…けど違うよな？今、おまえが真っ先にオレに言うこと、あるだろ？言わねぇなら、コッチから聞いてやる！

「その子ダレ？」

自分でも、驚くほど冷淡な口調でオレは太輔に聞いた…オレ、こんな言い方できるヤツだったんだ…他人が同じコトしてたら眉を潜めるだろうと思う…

けど、太輔はオレのそんな気持ちなんか、全く気付いてないのか、腕の中の赤ん坊をちょっと抱き上げ、オレと赤ん坊両方に柔らかいキレイな笑顔を向けると


「可愛いだろ、今日からオレたちの子ども！」

って、なんの後ろめたさもない真っ白な表情で、ホンっとに嬉しそうに笑った




……今、なんつった……？




…そか、目の前が真っ暗になるって……こう言うこと言うんだ…



まだ生きてきて２６・７年くらいだけど、オレは初めてその感覚を、身をもって理解した、


しかもこんな……最悪のシチュでかよ……





「…っ、フザけんな………」


「…ひろ……？」




…気付いたらオレは、この空港のど真ん中で




思いきり太輔の頭をグーパンチしていた……

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