†狂ったアナタは王子様†【実.況.者】

____…第48話…____ ページ48

「…キヨ。大丈夫?」

「あ、こっち見んな。オレ今すっげーブサイクな顔してるから。」


そう言って、右手で顔を隠したキヨ。
その指の隙間から、一粒、二粒と涙がこぼれ落ちた。

…そうだよね。多分、ヒラよりキヨの方が、先に緑川さんを好きだったもんね。


ずっと、緑川さんのことを見ていたもんね。


「オレ、紅茶淹れて来るね。」


ひとこと言って、城へ戻った。

透き通る紅茶を淹れながら、窓の外を眺める。



“俺はお前に未練なんてねえからな”



「…キヨって、どこまで嘘つきなんだろうなぁ。」






「本当の嘘つきは誰やろうねぇ。フジくん。」



いきなり後ろから声がした。

驚いて振り向くと、椅子に寄りかかって、ゆらゆら揺れる、レトルトさんだった。


背中しか見えないけれど、笑っているのかな。



「キヨくんは素直で単純やで。ヒラくんも、偽ってただけで、すっごい素直でええ奴やったやん。」


黙って、3つ目のカップに紅茶を淹れた。



「……アンタは?これで良かったんか?フジくん。」



あの二人が大好きな、甘いショートケーキをお皿に運んだ。








　









「…好きやったんやろ?Aちゃんのこと。」




最後のショートケーキを、床に落とした。ぐちゃぐちゃになったケーキを見て、ハッとする。




「『俺はキヨのこと応援する〜』とか言っといて……アホやなぁ。アンタも。」


レトルトさんは、組んだ手を頭の後ろに回し、ため息をついた。



………そうかなぁ。





“笑った方が素敵ですよ”



“フジさんフジさん!今度、紅茶の淹れ方、教えて下さい!!”



“フジお母さん…!!”






「…俺は、あの子のお母さんだから。」

「はあ?」



「我が子が幸せになってくれれば、それでいいの!」




男として見てほしかった、なんて思わない。

緑川さんが笑顔なら、それでいいから。



「あっそ。はー…もう!!よう分からんわ!!狂気王国の奴らは!!」


立ち上がって、首をポキポキ鳴らすレトルトさん。分からなくていいんだよ。

レトルトさんは、頭が良すぎる。


窓際にひじをついて、庭で騒いでいるみんなを眺めた。




「AちゃんAちゃん!!」


「ひぃっ!?いきなり名前呼びしないで下さいヒラさん!!心臓に悪い!!」


「おいヒラ!!Aを泣かせるな!!」





幸せになってね。緑川さん。ヒラ。


不器用で、感情表現が下手くそな君達だけれど







　






子供みたいに笑う二人が、大好きだよ。

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