検索窓
今日:3 hit、昨日:57 hit、合計:86,569 hit

44 ページ7

yb.


「なっつかしー」

助手席に収まっている伊野尾の呟きが、耳に入る。
車窓に向けられているそれに、返事が欲しいわけではないんだろうと黙ってハンドルを握った。

「初めてなんだ…帰るの」

「そうなんだ」声を向けられ応える。

「うん。親も今は住んでないしね」

「そうなのか?」

「うん」

フロントガラス越し、こっちを向いた彼がゆったりと微笑む。
その小さな頭を引き寄せたい思いにかられ、感情に従い自動運転に切り替えた。



二時間ほど走り、俺と伊野尾が10年前まで過ごしていた街へと入った。
随分様変わりしてるそうで、初めての場所みたいだと笑う伊野尾。

そっか…俺は変わっていることすら判らなかったんだな。
今となっては、それは単なる事実というだけだけれど。

「何か新鮮だな、それ」

「へ?ああ、服?おれも久しぶりすぎてさー」

「それも問題じゃね?」

「っさいよ」

白衣を脱ぎ、ソフトスーツに身を包んでいる彼に制服姿が重なり。

ふとした端々に、今度はポン、ポンと柔らかい何かが弾けてく。


過去の想いに囚われることはないと、大倉先生は言っていた。

『例えば過去の場面を思い出しても、生まれてくるんは君自身の『今』の感情や』

『そこんとこ間違えんようにな』

そう穏やかに頬笑む先生に、俺は心が軽くなった。
確かに。
場面を思い出しているのに想いを覚えていないなんて、記憶喪失より始末が悪い。そう無意識に抱えてしまっていた罪悪感を、先生は払拭してくれたんだ。


「やぁぶ?やぶって」

「ぁ、ああゴメン、何?」

「何って…着いてるんじゃない?」

車は、いつの間にか実家の前で静かに停車していた。



……自動運転にしといて心底良かった。



.

45→←43



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (198 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
268人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

夏夢(プロフ) - 黄色いうさぎさん» 黄色いうさぎさまはじめまして☺️わぁ、何度も読んで頂いてるんですね☺️ぉ、おおぅ旗部屋リピートも(恥(/▽\)キャッ)💦こちらこそありがとうございます😆励みになります💕 (2022年9月14日 12時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
黄色いうさぎ(プロフ) - こんばんは、始めまして夏夢さん。夏夢さんの作品を定期的に読み直しています。回路…や尾行シリーズも好きです。旗部屋も😁どれも素敵なお話達、やさぐれた私の心を癒やしてもらってます。ありがとうございます (2022年9月13日 22時) (レス) id: ef1652ec47 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ちぃちゃんさん» ちぃちゃんさま、拙話を寛ぎのお供にだなんて、恐縮でございます😆ありがとうございます(照)💕子狼くん、またお目見えしました時は遊びにきてくださいねー😊💕 (2022年5月3日 16時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - 連休で時間がたっぷりあるのでシリーズ読み返していて、「回路…」の薮伊野にキュンときました。 薮伊野大好きですが子狼くん達のお話も大好きで読み返してはやっぱり作者さんの紡ぐお話大好きだなと改めて思いました。 (2022年5月2日 20時) (レス) id: bdaf2a3994 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ましろさん» 食べられてしまいましたねー(^-^;そうなんですよ、お話の肝なのにさくっとし過ぎてしまいまして…これは覗き見案件なんでしょーか( ̄▽ ̄;) (2021年2月19日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夏夢 | 作成日時:2020年3月20日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。