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yuya.
「マスター?」
扉を軽く叩いて、室内を伺う。
「起きてるよ」
カーテンの引かれた中、ベッド脇の仄明るいランプの下で、ひらりと綺麗な手が揺れた。
「今ね、大ちゃんが居るんですよ」
「みたいね。元気そうじゃん」
ランプの乗ったテーブルに盆を置き、首まで潜ってる彼に半歩近付き屈む。
「起きられますか」
「ん」
すらりと伸びた腕が、当たり前のように俺の首へ回される。負担を掛けないよう、薄くなった背中に手を添え助け起こした。
「あーん」
「え、」
クッションを敷き詰めそっと寄り掛からせて、器を差し出し固まった。
「マスター?」
「あーん」
「……あーん」
「んっ」
満足そうなのはいいんだけど…ぇえっ?
こんなキャラじゃないよな?!
「はやく、次っ」
「っぁあ、…はいあーん」
「あー」
いやいや、可愛いすぎか!
長く付き合ってるけど、初めて見る一面だ…。
「…はい、これで終わりです」
結局、雛よろしく一匙ずつ飲ませ切ってしまった。
って、渡した白湯普通に飲むじゃん!
「ユーヤ」
「はいっ」
「今夜はおれと寝ること。いい?」
「マスター…でも」
ん、と広がった腕を受け止め、抱き締めているのに抱きしめられてるみたいだ。
「明日は回復するよ。元気になったおれを一番に見たいでしょ?」
…判っていたのか。貴方をこんな目に合わせてしまった、俺の後悔と罪悪感を。
「…見たいです」
「ふふ、よし」
腕を解いて、青の瞳がふわりと弧を描く。次にはそっと、唇が触れてきた。
「マスター…」
「ケイと呼べ」
あの日から、眠る貴方にしか口付けられなかった。少しの体力も使って欲しくなくて。
「寝込みばっかだったからねぇ…」
やっぱり知ってた。
「ここにだけじゃなくて、一杯しような」
「………はい」
「おれもしたいの。思いっきりね」
「ケイっ…」
力を込めそうになった腕を、辛うじて耐えた。
今夜一晩。
明日になれば。
「やーっと呼んだ。意地っ張りー」
貴方の名をずっと呼ばなかったのは、自分に課した罰だった。きっと何もかも判っていて、俺の気が済むようにしてくれてたんですね。
「俺のご主人様……」
「ふふ。そうだよ」
ふにゃりと力が抜けてく身体を、そっと横たえ包み込む。
約束ねと囁く声を最後に、深い眠りについた貴方をそっと抱いた。
暖かいです……ケイ……。
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夏夢(プロフ) - 黄色いうさぎさん» 黄色いうさぎさまはじめまして☺️わぁ、何度も読んで頂いてるんですね☺️ぉ、おおぅ旗部屋リピートも(恥(/▽\)キャッ)💦こちらこそありがとうございます😆励みになります💕 (2022年9月14日 12時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
黄色いうさぎ(プロフ) - こんばんは、始めまして夏夢さん。夏夢さんの作品を定期的に読み直しています。回路…や尾行シリーズも好きです。旗部屋も😁どれも素敵なお話達、やさぐれた私の心を癒やしてもらってます。ありがとうございます (2022年9月13日 22時) (レス) id: ef1652ec47 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ちぃちゃんさん» ちぃちゃんさま、拙話を寛ぎのお供にだなんて、恐縮でございます😆ありがとうございます(照)💕子狼くん、またお目見えしました時は遊びにきてくださいねー😊💕 (2022年5月3日 16時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - 連休で時間がたっぷりあるのでシリーズ読み返していて、「回路…」の薮伊野にキュンときました。 薮伊野大好きですが子狼くん達のお話も大好きで読み返してはやっぱり作者さんの紡ぐお話大好きだなと改めて思いました。 (2022年5月2日 20時) (レス) id: bdaf2a3994 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ましろさん» 食べられてしまいましたねー(^-^;そうなんですよ、お話の肝なのにさくっとし過ぎてしまいまして…これは覗き見案件なんでしょーか( ̄▽ ̄;) (2021年2月19日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏夢 | 作成日時:2020年3月20日 23時