肆・神様は旦那様【QK】

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拓司を褒められる事は嬉しいのだが、母の言葉の端々に｢けど、Aは…｣っと聞こえない言葉が聞こえる気がした。


｢あの、ひ弱そうな旦那は？
拓哉くんとは、上手くいってるの？｣
｢……まぁ、普通に…。｣
｢そう…あー！早く孫抱きたいわー。｣
同僚の娘さんに2人目の子供が産まれて羨ましいっと、熱弁される。

｢ばぁばが、子育て手伝ってあげる。｣
｢…授かりものだし、私たちの子供は私たちで育てるから。｣
｢何言ってんの。A要領悪いんだから、
私たちが助けてあげなきゃ無理でしょ？｣

ドクン
心臓が酷く冷たく、大きく鳴る。

｢……何かあったら助けてもらうから。｣
精一杯の譲歩を言葉にする。

｢いつでも頼っていいのよ！｣
今から楽しみっと、見ぬ孫へ期待を込める母。

｢じゃぁ、私忙しいから行くわ。
お互いに体には気をつけましょ。じゃぁね。｣
｢うん、じゃぁ…。｣
手を振り母を見送った。

久々に会った母は、やっぱり母で。
彼女のサバサバと明るい話し方は、
人との壁をすぐ壊し懐に入れる愛嬌のあるもので、
私には少し息苦しかった。

｢……よし、あと少し。｣
心臓はまだ煩いが、私は時間が迫っている事もあり片付けを進めた。

パリン

グラスを洗っていると、ヒビが入っていたのが割れてしまった。

｢あ、血…。｣

間違って滑らせてしまった指には血が浮かぶ。
ポタポタと落ちるそこにハンカチを巻き付け、片付けを進めた。

｢遅くなりました、本日はありがとうございました。｣
管理会社の受付に声をかける。

｢あ、ありがとうございます！
お姉さん、Aさんの娘さんだったんだね！
よく、お世話になってます。｣

｢え、あ、こちらこそ。母がお世話になってます。｣

対人スイッチをONにする。
今の私は笑えてるだろうか？

｢Aさん、娘さんは自分と似てないって言ってたけど、いやぁー、よく出来たお嬢さんだ！｣

母は私のことをなんと伝えていたのだろう？
似てないっと言うことは容姿または、
働き方の事を言っている気がした。

...私が仕事しているの見た事ないくせに、
勝手に何かを決めつけていたのだろう。

モヤモヤと母が口にしていない言葉を勝手に想像し、
勝手に傷ついてしまう。

彼女にとって私は「話題」だから。

愛想笑いで誤魔化し、
今日のお礼と鍵を返し私はスタジオを後にした。


オフィスで初めて過呼吸をおこす、一ヶ月前の話。

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