４０億の時の針

時・38 ページ40

● 渉・side ●

拓斗君は、太輔のことを不信感いっぱいで見ている。


もちろん この俺もそうかもしれない。


彼らからしたら 俺たちは特異な者だからだ。


尊敬すべき姉を悲しませた相手をすんなり許しはしない。


でも、渋々ながら 太輔をこの家に招き入れてくれた。


入って驚く… ほとんど家具らしきものがない。


一言で言えば、超、簡素。


女子特有のキラキラグッズもなければ、ぬいぐるみさえない。


でも、とても綺麗にしてる…


意外なことに部屋のコーディネートが俺のカラーが中心。


温かみがあり、清潔感いっぱいの部屋だった。



「あの… Aは？」


「隣の部屋」



隣…



この襖の向こうかな？



太輔は行きたそうにソワソワ。



「寝てたら 起こさないで」


「わ、わかった… 」



太輔は ゆっくり襖を開けた。


そこも簡素な部屋… ベットしかない。



「よこーさん、お茶飲む？」


「え？いいの？」



拓斗君が俺をコタツに手招き。


お言葉に甘えて コタツに入った。



「お姉さんって 太輔のファンだよね？」


「… 知ってんだ」



キョロキョロと部屋を見渡すが…



「グッズとかないんだね」


「全部 売ったから… 」



売った…



どおりで見渡してもないんだ…



「姉ちゃんはさ、俺の為にずっと頑張ってきたんだ」


「大学行けたのだって 姉ちゃんが進学を諦めてくれたからなんだ」



聞けば、彼らの父親が亡くなってから Aちゃんはたった一人、この東京に上京し働いていた… あのディラーで。


杉野さんは彼らの父親と仲が良かった為、父親代わりとなって見守ってくれたらしい。



「稼ぎのほとんど… 俺たちにくれてさ… やっと解放してやれると思ったのに」


「好きになった奴はあんなのだし」



あんなのって…



う〜ん、太輔君、信用されるまで時間かかりそうだぞ？



「でも、アイツ、確か彼女いたよな？」



ギクッ…



「週刊誌で見た」


「姉ちゃん、１週間、メシ食えなかったもんな」



やべぇ…



バレバレだ…



「よこーさん、悪いけど 適当なところで姉ちゃんから離れてくれる？」


「これ以上、姉ちゃんが泣くの見てられないんで」



いや〜…



「そ、それは 無理かな… ？」


「なんで？」




何でって…




太輔が離さないと思う…




もう、きっと 自分の気持ちに気づいているから。




襖の向こう…




太輔の心が彼女から 本気でAちゃんへと代わる。

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