快晴を翔ける (ページ10)

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深雪ページ10

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明るく抜けた空が眩しい。
冬のように冷たかった手足がゆっくりとあたためられていくようだった。

校庭を見下ろせる側のフェンスに近付くと、思っていたより全然背の低いフェンスに思わず笑いが零れた。一体何の為のフェンスなんだろう。そう思いながらフェンスを少し登って跨ぎフェンスの外側へと降り立つ。

下から吹き抜ける風に身体が煽られる。僅かに生まれた恐怖がぐっとフェンスを掴む手に力を込めた。

死んだら、私は私のままに生きれるかな。
死ぬのに生きたいだなんて矛盾してるか。

そんな私の呟きは、風に攫われる筈だった。

「…死にたいん」

背後から突然掛けられた声に驚いて振り返る。空に負けないぐらい眩しい緑が少し先で私を見つめていた。逆光のせいで顔はあまり見えないけれど、ゆっくり此方に近づいてくる彼はやはりトリイくんだった。

沢山優しくしてくれたトリイくんはフェンス越しに目の前まで来るとなぁ、と聞いたことないほど低く声を落とす。カシャン、と彼が掴んだことで目の前のフェンスが僅かに揺れた。

「死にたい、んかな。分かんないけど。このまま生きることに価値が見い出せないんよね」

絞り出したように吐き出された本音は、自分すら理解していなかった奥の言葉なような気がして。
彼のライムグリーンの瞳を初めて怖いと思ってしまい視線を逸らし答えると彼は小さく息を吐いて半歩後ろに下がる。

フェンスから離れた彼の手が私の目の前で翳される。何事かと顔を上げると視界の真ん中で彼のライムグリーンが強く光ったと思えば私が掴んでいたフェンスが一瞬の内に強い風に攫われるように消え、身体が外に投げ出される。

声を出す間もなく、異様な浮遊感に身体が包まれた。

【深雪(みゆき)】
深く積もった雪。