終わらない夏 ー完結ー

10 夢じゃない ページ10

「YouTube観てる人なら誰しも知ってる有名人だからね。それよりうちのAにどういったご用件で？」

「先日、彼女の落とした社員証を拾ったので今日はそれを届けに来ただけですよ」

「成る程、それはありがとうございます」

「ほら、社員証」


ヒカルさんは手に持っていた社員証を、今度はちゃんと返してくれた。


「ありがとうございます…」


自分の元に戻ってきた社員証。
これでヒカルさんの用事も終わったのだから、きっとこのまま帰ってしまう。
そう思ったら、寂しさを感じてしまった。


「…っ」


ダメ元で社員証を持ってきてくれたお礼にと、ご飯に誘おうと思って口を開くと、


「お前、今日何時に仕事終わる？」

「…あ、えっと、18時には終わりますけど…」

「じゃあ、その時間になったら電話するから飯行こ」

「え！」


私が勇気を振り絞って誘う前に、ヒカルさんからの食事の誘いに驚いて声を上げてしまった。
まさか、ヒカルさんからお誘いを受けるなんて、生きててよかった…。
私は心の中でガッツポーズを決めた。


「社員証拾ったお礼はそれでチャラにするから」

「わかりました！」

「じゃ、また後でな」

「はい！」


こうして夜会う約束をし、私は会社の外までヒカルさんを見送った。
するとヒカルさんはタクシーを呼んでいたのか、近くに止まっていたタクシーに乗り込むと直ぐに走り出してしまった。


「夢じゃ、ない…」


ヒカルさんが乗ったタクシーが見えなくなった後、軽くほっぺたをつねってみたら痛かった。


あの、大好きなヒカルさんと食事が出来るなんて！


私はこの後の食事会が嬉しくって楽しみすぎて完全に浮かれていた。
その姿を眉間に皺を寄せて辛そうにしている山田が見ていたなんて気づくこともなく。

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