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fk side
近況を尋ねる俺に、照はおずおずと言葉を返す。
iw「バーテンダー、だったんだけど、ついさっきクビになった」
聞けば、新人をいじめてた店長を殴ってしまったんだと。なんとも正義感の強い照らしい理由を聞いて、思わず笑ってしまう。
でも、次に発せられた言葉には、さすがの俺も固まってしまった。
iw「中学のあれは、親父が事業に失敗して借金抱えちゃって。いわゆる夜逃げっていうの?
で、各地を転々としてたんだけど、結局親父は堪えきれずに自分で命を絶っちまって…で、しばらくは母さんと2人で暮らしてたんだけど、母さんは次第に心身のバランスを崩して、暴れたり俺にも暴力を振るったりしてたから、俺もなんとなく家に寄り付かなくなってったんだ」
壮絶な話をあくまで淡々とする照を前にして、俺は今までこんなにも恵まれた環境にいながら、それに感謝の一つもしていなかったことを恥ずかしく思った。
iw「ちょっとタチの悪い連中ともつるんだりして、そうこうしてるうちに母さんも病気で亡くなった。
だから、食い扶持を稼ごうってことで、当時の先輩に紹介してもらったバーで働きながら、お酒の勉強とかさせてもらって…やっと一人前の戦力になったところだったのに」
「そこの店長を殴ってしまったと」
iw「…最低だよな…先輩に顔向け出来ねぇよ…俺これからどうすりゃいいんだよ…」
そう言って項垂れる照は、強面のくせになんだか犬みたいで愛おしい。
だけど、この人はどれだけの思いでここまでやってきたんだろうか。そして、どんな思いで俺から逃げ、それでいてこの身の上話をしてくれたのだろうか。
長らく孤独で誰にも弱音を吐けなかったであろう照が、今俺の前ではそうして素直でいてくれることが、なんだか嬉しかった。
そして、少しでもそんな照の支えになりたいと思ったんだ。
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作者名:わかめ | 作成日時:2020年1月15日 1時