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．
A、
そう私の名前を呼ぶ彼。
ぐわん、ぐわん、と目の前の視界が歪んでいく。
またやってきた、あの頭が割れるような痛み。
「こうやって恋人として触れるときぐらいは、姫様とその家来の俺、なんて立場は忘れたいんです。
…ただのジョングクっていう1人の男として、ただの1人の女の子のAに触れたい。」
真剣な顔でそう言って私に触れた彼。
「俺は、何があっても姫様の味方です。
……そんな俺にも言えない？」
いつだって私の1番の味方でいてくれた。
さまざまな遥か遠い記憶がものすごいスピードで脳内を巡っていく。
姫様、そう私を呼ぶ優しい声。
笑うとキュッと目尻に寄るシワに薄くなる上唇。
ちょっと生意気なその態度。
私を見つめる温かくて優しい瞳。
ぼろぼろと涙を流すその表情。
そんなジョングクの全てが、
夢の中の私の恋人の姿に綺麗に重なった。
…どうして、忘れることができたんだろう。
「…ジョングク」
JK「…ん？」
「……ジョングク」
JK「………A」
「……………ジョングク」
溢れ出てくる涙が止まらない。
ずっと脳内にかかっていた霧が晴れて、パズルの最後の1ピースがようやく埋まったような、まさにそんな気持ち。
私が忘れていた、とても大事なこと。
今まで不思議に思っていたジョングクの態度も今ようやく全て納得がいった。
彼が恐る恐る私に触れるたびに込み上げてくる愛おしいというこの気持ち。
彼の熱い瞳と、身体の熱、その溢れんばかりの愛を一身に受け止める。
懐かしいと感じるのはおかしいのかな。
今の私は、今のジョングクを初めて受け入れるというのに。
その行為が終わって、まつ毛の隙間に涙を滲ませながらも疲れ果てて眠ってしまった彼。
その腕は相変わらず私を強く抱きしめていて、私はまた溢れてきそうな涙を必死に堪える。
．
．
好きだよ、ジョングク。
……………ごめんね。
．
ジョングクから離れることを選ぶ私を
どうか、許して。
．
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作者名：ナノカ
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月31日 19時
