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ああ、どうしてそこまで考えなかったんだろう。
今になって悔やんでも、もう遅いのだけど。
「これは仕方ないことなんだ、分かってくれ」
父様のそんな表情は初めて見たように思う。
いつも静かにその表情を崩すことがなかった父様が眉をひそめて、そんなことを言った。
城から逃げ出した私たちを探すために国を挙げての捜索を行ったことは、当たり前のように隣国にも伝わっていた。
それを知った隣国の王子が怒り狂って、私とジョングクを殺せと言ったらしい。
このことを父様から聞いた時特別驚きはしなかった。
隣国の王子のことは噂には聞いてはいた。
非常に冷酷で残忍な人だと。
けれど人柄なんて関係なく、自分に嫁ぐ予定の姫が嫁入り前に城から逃げ出したなんて事実が知られてしまったら婚約破棄になるのも当然のことだと思う。
けれど、殺せ、に関しては想定外だった。
それこそ普通だったら国交問題に発展するようなことだと思う。
けれど私たちの国なんて相手じゃない、そう思っているからこそ隣国はそんなことを平気で言ってくるのだ。
私たちの国と隣の国の武力の差なんて歴然だった。
父様はそこまで考えなかったのだろうか、なんて事の発端は私だというのにそんなことを思った。
けれど他に嫁げるような姫がいない状況で、私を見つけられないことの方がきっと最悪の事態だと思ったんだろう。
父様にそのことを聞いたときの私の気持ちをなんて表したらいいんだろうか。
絶望、悲壮、諦念。
どれも違う気がする。
もう私の命なんて、どうでもよかった。
ジョングクを助けなきゃ。
そんな、使命感、って言うんだろうか。
考えたのはジョングクのことだけだった。
何度も何度も来る日もくる日も父様に頼み込んで、そうしてある日父様が折れてくれた。
父様はその日、遠い昔の話をしてくれた。
母様と結婚するよりも前。
まだ父様が国王ではなくて、王子だった頃の話。
ある1人の後宮の下女との話だった。
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作者名：ナノカ
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年3月31日 19時
