Ability I (ページ50)

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翔side

そこまで準備を終えると、そこで静かに時が過ぎるのを待つ。

…

6時20分、部屋を出た。そして、夕食が始まる30分前には、まだ座布団が敷いてあるだけの会場に到着する。

会場にはまだ誰も来ておらず使用人達がお膳を並べるなど着々と準備を進めている。俺は1番隅の末席に座った。

これから起こることを想像すると気が重い…余計な問題を起こさぬよう空気のように気配を消す。

…15分程すると続々と人が集まって来た。俺以外の人は皆楽しそうに歓談しているが俺に声をかけてくる人も目を合わせてくれる人もいない。

むしろ“まだいたのかこいつは”という空気が出ているのを感じる。

当主がやって来ると夕食が始まった。
その終盤…

当主「そう言えば翔、この間学園に入り込んだ魔物を倒したらしいじゃないか。それも奏汰(かなた)も助けたってな。…お前が奏汰の役目を奪ってどうする気だ？…外孫のくせに。そんなことで将来当主になれるとでも思ったか？」

その言葉に息が詰まる。
…やっぱり見られてたか

当主のその発言を聞いて周りの人からも“なんて浅ましい子”“自分の立場が分かってないなんて”とかひそひそと話す声が聞こえる。

…あの魔物が智くん以外に倒せた？ほんとにそう思ってるのか？智くんでさえギリギリだったのに？
俺は自分の仲間ごと否定されたようで悔しくて悔しくてたまらない。

…でもその気持ちを押し殺す。仲間に害が及ぶ可能性があることは出来ない

翔「…申し訳ありません。出過ぎた真似を致しました」

そう言って頭を下げる

当主「…ふん。あぁそんな事が出来るくらいだからうちの洞窟に入り込んだ魔物の退治しといてくれ。…出来るだろ？強いらしいからなぁ」

翔「はい…」

入り込んだのではなく、俺のために強い魔物を放ったんだろ…いつものことだ、それで俺が死んだらこちら側は万々歳という訳だ。

当主「明日の会合欠席で構わん。終わったら帰れ」

最初から俺を会合に参加させる気なんてないくせに、会合なんて俺をこちらに来させる為の口実だろ？

翔「…分かりました。それでは準備がありますので失礼します」

そう思ってることは一切感じさせず俺は返事をする。

…返事は誰からも返ってこない。もう誰も俺のことなんて見ていなかった。

俺は何も言わず会場を出た。
　

一度部屋へ戻り気持ちを落ち着かせ、荷物を全て持つと覚悟を決め屋敷を出てすぐの所にある洞窟へと向かった。