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普段なら無断で立ち入ることなんてほとんどないこの部屋だが、部屋の中はきちんと整頓されており、なんだかいい匂いがする。同じ家に住んでるのにおかしいな……なんて思いながらも、匂いに反応するとか変態かよ、なんて邪心を振り払うべく頭を左右にブンブンと振りまくった。
布団をめくり、そこに彼女の体を下ろすと、その上から優しく毛布をかける。朝になれば冷えるだろうからと暖房をつけて、一緒に加湿器もつける。普通ならばここで襲って一発やってるところだ。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだが、今の蘭はそんなことどうでもいい。もしもこのまま彼女の同意もなく無理やり襲ったりなんかしたら命はない。それよりも、それが原因で彼女に嫌われることの方がよっぽど嫌だ。死んだ方がマシである。
彼女は普通の女とは違う。自分が心から愛した、愛おしい愛おしい女の子なのだ。蝶よりも、花よりも、この世の何よりも優しく接しなければならないと、本能がそう言っているのだ。せめて、せめて彼女が高校を卒業するまでは絶対に手を出すなよと自分に暗示をかけた。腕から胸の辺りにかけてにあった柔らかな感触をもんもんと思い出してしまう自分を何とか鎮めて、大きく深呼吸をした。が、彼女の匂いがするのでこれはこれで危険である。
最後に、すよすよと眠る彼女の頭を優しく撫でて「おやすみ」と小さくつぶやく。そろそろ自分も寝よう。髪は別にいいか、なんて考えながら立ち上がると、ふと机の上の写真に目が止まる。
「これ………」
思わずそれを手に取ってしまう。そこには、柔らかな笑顔をうかべる彼女によく似た明るい茶髪の女性と、黒い短髪の、笑顔の明るい青年。そして、その間にはにこにこと笑顔を浮かべてピースサインをする少女がいた。きっと、それが彼女なのだろう。そして、その女性が母親で、青年が兄だ。兄の正和は彼女と血が繋がっていないはずだが、どこか似ているような気がした。明るくて、人懐っこそうな笑顔だ。
母親の優しげな微笑みはまさに彼女だった。彼女の聖母のような優しさと、天使のような愛らしさは正しく母親似だ。まさに女神のようだった。写真越しでしか見ることは叶わないが、この二人が並べばきっと絵画のように美しいのだろうと思う。
「この時から天使じゃん……」
無邪気で、まだこの世の穢れを知らない笑顔だ。今でも十分そうなのだが、今の彼女は大人の闇を知っている。
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Liezabeth Gillies(プロフ) - 中高生が書くような文章ではなくしっかりとした文才があり安心して作品を楽しめます。ところで、どのような結末になるのでしょうか。着地点はどこに、、? (2021年12月1日 1時) (レス) @page43 id: f20a915395 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 面白くて一気読みしました!好き!応援してます! (2021年11月10日 19時) (レス) @page22 id: 1f03340a86 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - すみません、20話の『頭のおかしい練習に囲まれて』は『頭のおかしい連中に囲まれて』の間違いではないですか? (2021年11月8日 3時) (レス) @page20 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
まるきち(プロフ) - 文章力ものすごいのに、ギャグ線強くて好きです♡前編からずっと読んでます!花蛸花さんのペースで頑張ってください💪 (2021年11月7日 12時) (レス) @page21 id: 4a45715550 (このIDを非表示/違反報告)
結菜 - 好き、、なんで、こんな、作品作れるの??え?なんでこんなに、文才あるの?え?神様って不公平だね。てか、神様っているのかな?、、、あ、挨拶が遅れてすみません!結菜です!花蛸花さんの作品好きです!面白すぎて一気見しました!!! (2021年11月4日 18時) (レス) @page18 id: 05b53aed2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2021年10月30日 2時