十六夜奇病病棟【小説】 (ページ10)

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＋　【海堂晴翔side】ページ10

僕にとって、夜は暇でしかなかった。

一冊の本を手に取る。表紙がボロボロになってしまっているこの本は、母からもらったものだ。
僕には学生時代がなかった。家にはお金がなかったらしい。だからこの本に書いてある言葉の意味も然程理解はできない。何故僕はこの本を読み続けているのか。そんなことは僕にも分からない。ただ、きっとこの本に書かれてる「数学」ってヤツは興味深いものなんだろう。
あんまり考えすぎると眠くなってくるが、やることはこれくらいしかない。

僕にはあの本に書いてあった「＋」の意味が分からない。
これは数学ってヤツに関係するのだろうか。
街中で昔見たことがあった気がしたけど、どこにあったかも分からない。

今は夜だ。

この時間まで起きてる人なんて、きっと僕くらいだろう。
「＋」の形の意味を、僕は知りたかった。
親に聞けば良い話だが、僕は何故かそうはしなかった。
僕は使えそうなものを全てカバンに詰めて家から出た。
あの形を探しに。

……………………
………

しばらく歩くと、赤く光るものが見えてきた。
暗闇の中を歩いていたからか、少し目が痛かった。

「…！！」

赤く輝く、「＋」の形。
その形は、僕があの本で見たものだった。
《十六夜病棟》
看板に書いてあった言葉は全く意味のわからないものだったが、とにかくこの形の意味を知りたかった僕は、そこに入ってみることにした。