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ピピピ___とけたたましく鳴り響いたアラームを止めてゆっくりと起き上がる。……朝だ。今のは夢だったのだろうか。
夢にしてはやけにリアルな気がした。出されたコーヒーの味も、じっとりと濡れてしまった足元の感覚も全てがハッキリと覚えている。
「怖……」
相手の顔が分からなかったけれど、誰なのだろうか。自分のよく知っている人のような気もするのだが、思い出せない。
___たかが、夢だ。
深く考えるのはやめにしよう、と自分に言い聞かせる。
不思議なこともあるもんだな、と何の気なしに手に取ったスマートフォンはメッセージが来たことを報せる。
『ごめん、今日風邪引いちゃって外出れないや』
友人からのメッセージだった。『大丈夫、お大事に』と送った直後に、『ゆっくり寝なよ』とだけ伝える。
しかし、二人で遊ぶ予定だった友人が外に出れなくなってしまっては、一気に暇になってしまった。
朝ごはんでも食べよう、とキッチンへ向かった時に見覚えのないカップが2つ目に入った。
ペアマグカップ……?買った覚えはなかったが、友人とふざけて買ったのだろうか。デザインは私好みで、大きさも丁度いい感じだった。
起きた時から知らない人の痕跡が自分の家に残っている、という事実が恐怖を煽ってくる。見知ったはずのこの場所は、一気に未知の場所へと変わってしまった。
急に居心地が悪くなった。私の知らない誰かが住んでいるのだろうか、考え始めると止まらなくなる。
今日の朝食は少し贅沢をして、外で食べよう。
思い立ったが吉日、急いで支度をして家を出た。
・
爽やかな風が吹いてる。その心地良さにうっかりどこかに座って、寝ていたくなった。
そんな考えとは裏腹に、どこかに導かれでもしたのか、と言う位サクサクと歩いていった。信号を渡って大通りから少し外れたところに、やってくるとどこかで見た事のあるような扉がある。
「これって……」
私がここに呼ばれたとすれば意味があっての事だ、入ってみよう。
木製のドアを軽く押し開けると、カランカランと軽快な音をたてる。夢の通りだった。どうせなら、あの場所に座りたい。そう思って店全体を見渡すと、ただ一つの席だけが埋まっていた。
___私が座りたかった席。
そこにいた彼は、私の方を一瞬だけ見て、すぐに目を逸らした。ここまで来たら何をやっても良い、と自暴自棄になり始めた自分がいる。
「あの」
「私のこと、知っていませんか?」
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