MY SEVENTEEN, 【アイドリッシュセブン】 (ページ22)

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　案の定、百から連絡が帰ってきたのは夜のとばりも降りたような頃だった。空の助手席からAを呼び立てるようにぴこんと軽やかな通知音が響いた。ちょうど飲み物でも買おうかとコンビニエンスストアに立ち寄ったところだったから、Aはくすりと笑ってスマートフォンを手にした。画面の電源を入れてすぐに目に飛び込んでくるのは、Aが抜け駆けをするように海を訪れたことへのささやかで可愛らしい妬みの文章と、頬を膨らませたうさぎのスタンプだった。百らしいと口角を緩ませて、Aは返答を打ち込もうとした。
「そろそろ、きみの、すきな、やたいが、でる、ころだ、って……と」
　今度一緒に行こうか、とは口が裂けても言えなかった。少し思案して、ふたりで海を訪れた折の思い出を煽るようなメッセージを送った。直接的な言及を避けるようにして、思い出を手繰ろうとした。百の臆病さに慮っているのか、それとも自分自身が怯えているだけなのかは自分でもわからなかった。ふっと息ほどで笑って、スマートフォンを鞄に仕舞った。車から降りて鍵を閉めると、通知音とは似ても似つかないぴこんという音がいやに耳に触れた。藍天鵞絨を広げたようなあたたかな暗さを持った夜の中で、そのコンビニエンスストアだけが煌々と異質に光っていた。
　店内はいっそけたたましいくらいに明るい雰囲気が保たれていて、例えばここでスマートフォンの通知音が鳴ったとしたらほとんどかき消えてしまうだろう。普段は気にも留めないようなことが針のようにかすかな痛みをもたらした。なぜかここからすぐに立ち去りたくなってしまって、よく考えもしないままにラムネゼリーと麦茶を手にした。スプーンをお付けしますか、というレジの店員のマニュアル通りの言葉がどこか遠く感じられた。取り合わせが悪いものを買ってしまったのではないかと気づいたときには、ラムネゼリーとペットボトルとスプーンの入った袋を持っていた。
　鍵を開けて車の椅子に深く沈みこむと、Aは大きく息を吐いた。いまになって、意地の悪いことをしてしまったという後悔がAを覆い尽くしていた。百は、友人である以前にストイックなトップアイドルだった。いつの間にか百は自分の遠くへ行ってしまったように感じていて、けれどもAは友人という線を越えた存在だった彼のことをどうしても諦められなかった。相手からも友人以上には好かれているであろうことを盾にして、彼を焚き付けるようなことを言ってしまった。本当に妬ましく思っているのはどちらなのか、Aにはわからなかった。

3→←準備ができたら火をつけるから