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「……それで。それをボクに告げて、どうしたかったの」
どうしたかったんだろうね。もう分かんないや。
一度言い出した言葉は止まらなくて、雪崩のように勢いを増すだけ。止める方法も特に分からなくて、本当に為す術がなかった。魔法みたいに途中で時を止めることなんてできない、雪崩も止まらない。
明らかに怒りの滲んだ顔をした彼は、そのまま私の返事を待っていた。でも、私はそれに言葉を返すことができなくて。どうしたらいいんだろう、どうするべきなんだろう、これ。何にも分かんない。ねえ、助けてよ、
『__天』
「っえ、」
明らかに声を発したのは、私だけじゃない。そこに重なったのは、紛れもなく七瀬__天の声で。思わず素っ頓狂な声が漏れるけれど、そんなものお構いなしに天は言葉を続ける。
「天。昔キミ、ボクのことをそう呼んでたでしょう。違う?A」
「うそ、て……七瀬。なんであたしの名前、」
「その馬鹿みたいな喋り方やめて。今すぐに」
驚きのあまり、言葉が出ずに硬直する。何度声を発そうと試みても、不自然なばかりに口がパクパクと動くだけ。喉から全身が硬直していく感覚。やがて、指先すら動かせなくなってしまった。
明らかに怒っていた表情から一変、天が浮かべたのは、私がよく知っている顔だ。毒を吐きながらも、周りを思う気持ちに嘘偽りのない、優しい顔。硬直している筈の身体は、目頭から徐々に解れていく。
「……ちょっと、なんで泣くの」
「だって、天、全然気付いてくれなかったじゃない、なんで急に」
「癖。A、昔からいっつも、肝心なこと話す時は左の横髪の癖毛の部分をくるくるするでしょう。さっきも出てた」
何やっても、思い出してくれなかったのに。そう言ってやれば、何もやってない、と一蹴。それすら、なんだか懐かしくて笑ってしまう。確かに、昔の私からは随分かけ離れてしまった。あの日、高校を辞める前日。偶々テレビで見かけてしまった天の姿に、きっと私は、このまま平凡を歩む自分が不安で仕方がなくなった。未だに初恋を引きづっていた私は、きっとこのままでは、天には一生会えなくなってしまうって、そればかりしか考えられなくなってしまって。
「ねえ、A」
「なあに」
「今はまだ、迎えに行けないから。もう少しだけ待ってて。
きっとボクが、キミを世界一幸せにしてあげる」
まるで明晰夢。
焦り狂った恋心は、一筋の軌跡にようやく乗れたのだろうか。
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