空色ホットライン (ページ15)

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レッスンを終えて窓から外を覗くともう景色は薄紫色で、時刻は18時。

今日の仕事はこれで終わり。

食堂へ向かう人もいれば自販機へ向かう人、帰り支度をする人と様々だ。

ストレッチもそこそこに、食堂に行く前にさっぱりしようとシャワー室へ向かっていた。

頭の中はさっき佐久間と交わした話…まあ、唇の話がほとんどを占めている。

だから廊下を曲がった瞬間、突如その唇の持ち主が胸元に突っ込んできて死ぬほど驚いた。

「うぎゃっ、！」

『おっ…と、』

「ひ、ひかるっ…！」

相手はその数倍驚いたようで、悲鳴混じりに名前を呼ばれる。

髪色とよく似た真っ黒の瞳を溢れんばかりに見開いて、いつものほほんとした表情はどこへやら。

自身の服の裾を握り締めて固まるふっかは、驚いてるだけじゃなくて緊張してるような困ってるような。

…なに、俺とばったり会って困ることとかある？

さっきも一緒にレッスンしてたじゃん。まあ目が合うことはなかったけど。

いくらもっちもちのぷりんぷりんだからって、

『…そんなビビんなくても取って食べたりしないけど。』

「ヒイっ、」

拗ねた表情そのままに唇を突き出しただけだったんだけど逆効果だったのか。

…さっきまでラウたちと楽しそうに話してたのに。触れられても何の抵抗もしなかったのに。

なんで俺には緊張してんの？ムカつく。

まあいい、この際だ。

この好機を逃すまいと身体をぐいっとふっかに寄せて、
ついでに退路を塞ぐべく右手を壁に引っ掛けて、しかしなるべく穏やかな声音で問いかけた。

『ふっか最近俺のこと避けてない？』

ふっかは両手をビタっと壁にくっつけたままどうやら固まってしまったらしい。
それは肯定と捉えて良いのだろうか。

『……なんで？』

黒色の瞳を覗き込めばゆらゆらと左右を彷徨った挙句、すっと下に逸らされてしまう。

うわ、これは流石に少し傷つく。

佐久間、言ってたことと違うんだけど。

『……ま、いいけど。』

ほんとはいいわけない。

けど俺もふっかもいい年の大人で。
小学生返りしてるうちの無邪気な次男とは違う。

誰かに目撃されて最年長いびりだと思われるのは俺が困る。

壁についた右手を離してやると、ふっかはようやくほうっと肩で息をした。

それから数度深呼吸をして、意を決したように面を上げる。