34話 ページ34
海があったのだ。
それは、絵や写真でみたように輝いてはいない。
足の先では、水がまるで生きているかのように揺れ動いている。
視線を前に移すと、空の灰色を鏡のように写す水が、空の下まで伸びていた。
「私ね、海のある街に住みたい」
いつか、そんなことを言っていた。
でも違う。
街に海があるんじゃない。
広い海の中に、街が、私達が浮かんでいるんだ。
湖景村の端の砂浜。そんなことを考えていたから、みんなに迷惑をかけてしまったな。
鼓動の高鳴りは、初めての海というものに感動しているのかと、痛みを感じるまで本気で思っていた。
今はただ、血が流れ出てゆくのを遠くで感じながら、地に着いた手に光る銀のリングを見ている。
この辺の椅子はみんなエマちゃんが壊してくれた。
イソップ君が納棺してくれたから、最初に見つかった私が最後まで残った。
ハンターの標的を変えて何度も助けてくれたノートンさんも、みんな飛ばされてしまった。
もう最後に振り絞る力も失い、冷たい地面に転がっていることしか出来ない私の傍で、ハンターは私の死を待っていた。
異国の変わった服を着た、綺麗な女の人。
ふと、小さく紅の塗られた口が開かれた。
「あんたはん、海に思い出でもあったんか」
凛として、それでいて優しげな声だった。
思い出は、いつか作る予定なの。
「結婚、しとるのね。それともまだ婚約指輪?」
首を僅かに縦に動かした。
「……あたしの人は、あたしをおいて行ってしもうたんよ。
あの人は悪うないって分かってはいても、それから必死にあたしを探してくれても、どうしても許せなかった」
寂しそうに海の方に目をやりながら、ハンターはまるで人間のように語った。
いいや、彼女は人間なんだ。
「……私、もね、おいてかれちゃったの。一緒」
「……その人を恨んではる?」
サバイバーを見つけて、攻撃して、ロケットで飛ばす。
心のない怪物だと思っていたハンターは、案外、おしゃべり好きなのかもしれない。
そんなことをどこかで浮かべながら、掠れた声で答えた。
「………いいえ、ずっと、愛してる」
だから後を追いかけたの。
痛い、苦しいはずなのに、頬が緩んだ。
「………あたしも、まだあの人を愛しとる。一緒ね」
彼女も微笑んだ。
一緒だね。
ねえ、あなたの名前を聞きたいの。
そう言おうとした時、自身がゆっくりと眠りにつくのを感じた。
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えるみ(プロフ) - あねもさん» 閲覧ありがとうございます!花言葉についてはあえて触れなかったのですが、分かってくれる方がいて嬉しいです……! (2019年9月22日 16時) (レス) id: 58f336f1ac (このIDを非表示/違反報告)
あねも(プロフ) - とてもおもしろかったです!最後に出てきた紫色のアネモネは、あなたを信じて待つという意味ですか?私自身、紫色のアネモネがとても好きなので嬉しくて思わずコメントしてしまいました!完結、お疲れ様でした! (2019年9月22日 4時) (レス) id: 8c1c97f69f (このIDを非表示/違反報告)
えるみ(プロフ) - *まめ丸*さん» 感動してもらえたなんて嬉しいです.......!またいつか新作作った時はよろしくお願いしますね!ありがとうございました! (2019年8月15日 11時) (レス) id: 24de3ea6a1 (このIDを非表示/違反報告)
えるみ(プロフ) - カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)さん» 完結させられて良かったです!閲覧ありがとうございました! (2019年8月15日 11時) (レス) id: 24de3ea6a1 (このIDを非表示/違反報告)
*まめ丸*(プロフ) - 完結おめでとうございます!!すごくよかったです!感動しました!!えるみさんと出会えてとても幸せでした!!そしてお疲れ様でした!!えるみさんの素敵な作品いつまでも待っています!!えるみさんや作品大好きです!!えるみさんの幸せを願って。また会える日まで!! (2019年8月14日 21時) (レス) id: 7b0adad536 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えるみ | 作成日時:2019年7月13日 17時