33話 ページ33
「なぁちょっと、聞きたいことっていうか……気になることがあるんだけどさ」
甘いケーキと、紅茶の香りが鼻をくすぐる。
良い葉を使っているのだろうか。
調香師のウィラが用意してくれたハーブティはとても高級で上品な香りがする。知識は無いのでなんとなく、そう感じるだけだが。
「こないだの夜、喧嘩してたのやっぱりお前たちだよな……?」
そう問う彼の手元の皿には、きつね色のパウンドケーキはもう残っていない。
傍に置かれたカップの紅茶は、一滴も減らずにぬるくなっているだろう。
「ああ、やっぱり聞こえていたよね。お隣だし。
喧嘩……とは少し違うけれど、うるさくしてしまってすまなかったね、ナワーブ君」
「いや、別にいいんだけどさ。次の日も普通に会話してたから、気になってて」
私はそんなに頼りにならないの……?
突然一人おいてきぼりにされた気持ちがわかる!?
そんなのが聞きたいんじゃない!!
Aと初めてゲームを共にした夜。
あの夜の、彼女の悲痛な叫びが思い起こされる。
てっきり避けられてしまうのだと思っていた。
「おはようイライ!ポッポちゃんも!」
次の朝彼女は、いつも通りだった。
まるで、本当に何事もなかったかのように。
でも、ずっと君を見てきたから分かる。
作り笑いとは違う、どこか歪な笑顔だと。
あんな顔、する子じゃなかったのに。
「おいおい、せっかくレディ達がこんなに用意してくれたのに……見えないけどわかるさ、また不安げな顔してんなぁ。
ヨメさんがゲーム行くたびにそんな心配してちゃあ気が持たないぞ?」
「カヴィンさん」
まだ、お嫁さんじゃ……という言葉は、からかわれそうだから飲み込んだ。
いつも心配で気が持たなくなりそうな自分を、元気づけてくれているのは貴方ですよ。
それも気恥しいから言わなかった。
「帰ってきた愛する女性に、どう言葉をかけて抱きしめるか。それだけ考えとけばいいのさ」
こういう人を、男の中の男っていうのかな。
お疲れ様?頑張ったね?
言われた通りむんむんと考えていると、頬が上がってからかわれながらもすぐに時間が過ぎていった。
「ごめんなさい!!エマがいけないの、エマが悪いの!!っごめんなさ……」
「イライさんっ、すみません、僕が、あの時納棺しなかったら……!!」
紺のローブに縋り付く二人を、呆然と見下ろしている。
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えるみ(プロフ) - あねもさん» 閲覧ありがとうございます!花言葉についてはあえて触れなかったのですが、分かってくれる方がいて嬉しいです……! (2019年9月22日 16時) (レス) id: 58f336f1ac (このIDを非表示/違反報告)
あねも(プロフ) - とてもおもしろかったです!最後に出てきた紫色のアネモネは、あなたを信じて待つという意味ですか?私自身、紫色のアネモネがとても好きなので嬉しくて思わずコメントしてしまいました!完結、お疲れ様でした! (2019年9月22日 4時) (レス) id: 8c1c97f69f (このIDを非表示/違反報告)
えるみ(プロフ) - *まめ丸*さん» 感動してもらえたなんて嬉しいです.......!またいつか新作作った時はよろしくお願いしますね!ありがとうございました! (2019年8月15日 11時) (レス) id: 24de3ea6a1 (このIDを非表示/違反報告)
えるみ(プロフ) - カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)さん» 完結させられて良かったです!閲覧ありがとうございました! (2019年8月15日 11時) (レス) id: 24de3ea6a1 (このIDを非表示/違反報告)
*まめ丸*(プロフ) - 完結おめでとうございます!!すごくよかったです!感動しました!!えるみさんと出会えてとても幸せでした!!そしてお疲れ様でした!!えるみさんの素敵な作品いつまでも待っています!!えるみさんや作品大好きです!!えるみさんの幸せを願って。また会える日まで!! (2019年8月14日 21時) (レス) id: 7b0adad536 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えるみ | 作成日時:2019年7月13日 17時