【第五人格】婚約者は後を追って

28話 ページ28

｢あーあ。しくったなぁ｣


つまらないと言うような言葉が、どこか楽しそうに降ってきた。


頭にガンガンと痛みが響く。

身体はもう動かない。

怪我を負っているから？
いや、安心して力が抜けたのかもしれない。



……早く、飛ばしてくれないか。

ひび割れた男に目で訴える。
ああ、目は見えないか。無意味だ。


｢達成感に満ちているね占い師クン。
あの子にカッコイイところ見せたかったんだ？｣


ヤツは壁に背をつき髪を弄り始めた。
話し相手が欲しいらしい。


｢……早くしてくれないか。
もう結果は決まっただろう。引き分けだ｣


｢そうだね、引き分け。実に面白くない結果。
でも今日は、良いものが見れた。写真に収めたかったなぁ｣


｢………あの子のことかい？｣


クツクツと笑う写真家。
こうしてしっかり話をしたことはなかったが、想像していた通りの意地の悪い男だ。

Aがコイツに目を付けられてしまったか。
彼女に手を出したらたとえハンターが相手でも痛い目を見せてやる。



｢あぁ面白い。違うよ。君だ｣


｢……は？｣


予想外の返しに、思わず腑抜けた声が出た。




｢あの子を逃がそうとする必死さがね。
今まで何度も君と戦いを交えてきたけど、あんな顔あんな声、初めてだったよ｣


足音が近づいて、目の前でしゃがみこまれる。






｢好きなんだね、あの子のこと｣




｢愛しているよ｣





心から。
好きなんかじゃ足りるわけがない。



写真家は、そう。とだけ言って、ようやく風船に括りつけてチェアに座らせた。





｢愛する人を永遠にしたいと思ったら、いつでもおいでイライ・クラーク｣





荘園へと飛び立つ直前に耳元で、どこか寂しそうな彼の声が聞こえた。

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