【イナイレシリーズ】one day【短編集】 (ページ3)

今日:7 hit、昨日:4 hit、合計:1,893 hit

オー・マイ・シスター！【井吹宗正】ページ3

．

　洗面台で何度もチェックしたのに、玄関に置いてある鏡でも立ち止まってしまった。
　ワンピースの襟や前髪の流れを整えていると、廊下から姉が顔を出す。

「あんた、まだいたの！遅刻するよ」
「わかってるよ！姉ちゃん、うるさい！」
「そんなに気にしなくてもかわいいってば！」
「もう、姉ちゃんそれしか言わないんだから！いってきます！」
「いってらっしゃい。気をつけてー！」

　姉の声を背中に受けながら、私は外に出た。姉から借りたデニムジャケットが、朝の冷たい風にはためく。私も彼も、部活で早起きになれているから、集合時間は少し早めだ。
　駅に近づくにつれ、人通りが多くなる。西出口の花垣に彼の姿を見つけた。

「……お、はよう」
「お、おお。はよ」

　井吹は私を見つけると、軽く手を上げた。

　今日は井吹と二人で、バスケ部を題材にしたアニメ映画を観にいく日だった。井吹は男子バスケ部、私は女子バスケ部でその映画に興味があって、そしてたまたま、偶然、二人とも今日はオフだったから、一週間前の放課後、「この日に観にいこうか」と決めたのだ。

　私は携帯のカレンダーに予定を入れながら思った。

　――これは、デートなのでは？

　いや。
　いやいやいや。
　私は、「男女が二人ででかければデート」と決めつけるような、低俗な人間ではない。
　しかしながら、一度思いついてしまったことを見て見ぬふりはできず、私はモヤモヤ(？)したものを抱えながら、今日を迎えた。
　デートか、そうでないのか。私の独断で決めることはできない。勘違い女にはなりたくないので。
　ただ、姉に頭を下げてリップとコテとジャケットを借りたのは事実である。いつもは制服かジャージだから、野暮ったいイメージを無くしたくて、少し背伸びをした。

　それなのに、いつもと違う髪型や服装に、私は気づいてほしいような、ほしくないような、微妙な気持ちでいた。
　怖くて井吹の顔が見られない。私の目線は彼の胸のあたりに注がれていた。彼はワンポイントのついた真っ白なトレーナーに、スポーティな黒いボトムスを合わせ、これまた黒いボディバッグを持っていた。……よく似合っている。

「あのさ」

　井吹の声にドッと心臓が跳ねる。呼吸を落ち着かせて「何？」と顔を上げると、彼は何となしに言った。

「今日、お前……なんか大人っぽいな」

　私は心の中でガッツポーズをした。