82話 言葉の壁 ページ42
時にーこの施設には学びの教室以外に体を動かす運動場、体育館も存在する。
トレーニングマシンなどを使って鍛えるのもあって使用する機会はないが、練習試合やら道具を使う競技を行うとなると当然広い場を使用しなければならないため、どんどん国費を使って建てられた。
…プライドが勝ったのか、無駄に凝った設計をしているのが一目瞭然である。
これぞ税金の無駄使い。
まあ、そのおかげで私が好き勝手に利用できるエリアが増えたのだが…。
―ここの施設の運動場の周りには取り囲むように観客席が設けられている。
どうせ部外者を呼び込むためだろうが利用価値はあまりないと見た。実際、使用されたのなんて1回か2回程度だ。
だからこそ、最近私は短い休み時間にここに逃げて一部の観客席を陣取って有効活用していた。どうせお客様がこない間は誰も使わないのだからと、硬い椅子に座って一人の時間を楽しむ。
隣の椅子にはノートと鉛筆をおき、図書室の本を片手にノート中身をどんどん埋めていた。
ここは忙しい野坂も流石にまだ嗅ぎつけてないから、私以外に誰もいない。
今のところ最高のロケーション…のはずだった。
「しばらくの間に随分やつれたな。少し休んだらどうだ。」
この声に反応するようにピクリと体が硬直し、本のページをめくる手が止まる。
「ああ、…この前は突然去って悪かった。色々と話したいことがあったが、事態が急だったものでな。」と付け足すように言う。
『この前』…まさかね。
恐る恐る後ろを見ると、見目麗しい男―セインが優雅に腰かけて座っていた。
私と目があえば、彼は微笑んだ。
「…やっぱあんたか。」
どっと気が抜けた私は少々乱暴に背もたれに背中を預けて本のページをめくった。
「む…、そんな言い草はないだろう。私が来たのだから、もう少し喜んだらどうなんだ。」
喜ぶだなんて酷い冗談だ。彼とてそんなこと想像してないだろう。
本から目を逸らすことなく適当に受け流す。
「するわけないでしょ。…それよりセイン。なんで貴方がこんなところにいるの?」
「…Aに会いに来た。」
後ろから聞こえるはずの声はなぜか前から聞こえた気がして、ふいに顔を上げると目の前にいた彼とバッチリ目があった。
いつの間に移動したのか前の椅子から身を乗り出して私を見下ろしている。
「―友に会いたい。その理由では不服か?」
その端正な顔を歪め―何を憂いているのか…、その理由を私は知らない。
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沙稀乃(プロフ) - 橋本アリィちゃんさん» ありがとうございます!(*´∇`*)私の頭がポンコツのため、なかなか進みませんが、よろしくお願いします!\( ˙▿˙ )/ (2021年11月5日 0時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです!続きを待ってます!(*´ω`*) (2021年11月3日 20時) (レス) @page40 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - ピータンさん» コメ、ありがとうございます!!凄く面白いと言われて、もう既に心が有頂天になってるんでまともに返信ができませんが、本当に嬉しいです。ありがとうございます!更新のろのろですみません…! (2020年8月21日 16時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
ピータン(プロフ) - すごく面白いですね!これ野坂君がもっと大きくなったらどうなるんだろう?これからも楽しみにしてます! (2020年8月21日 11時) (レス) id: d4faf78640 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - こさめさん» え!?本当ですか!!ありがとうございます!!コメント本当にありがとうございます!嬉しいです! (2020年8月18日 17時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沙稀乃 | 作成日時:2020年4月12日 12時