【A3!】天才ちゃんの化けの皮。2nd

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Nanao side.






俺っちには、数日に一度の楽しみがあるっす。







《もう！またジークったら自分のことばっかり！そんなんだからフローレスも…って！
聞いてる？！》







それは、大好きな大好きな由井サンのアフレコ練習の見学。
…っといっても、由井サンにはそんなこと言ってなくって、俺っちが勝手に覗き見てるだけなんスけど…。






時間は深夜の2時。
毎日はしていないけど、由井サンはランダムで庭の木の麓で練習をしていた。






なんで外なのか、なんでこの時間なのか。
よくわからないことがいっぱいっスけど、そんなことはどうでもよくなるくらい由井サンは綺麗だった。






顔、髪、声、それから雰囲気。由井サンの全てが月明かりに照らされて、俺っちは魅了される。







《全く…ジークがそんなんだから、いつまでたってもアンドロメダが心配性なんだからね！？

恋人なんでしょ？ちゃんと見てあげなよ。》






この間、由井サンの稽古の時に言われた言葉があった。






"舞台の上では自分を殺すの。舞台上にいるのは登場人物であって私じゃない。


もちろん、これは強制じゃないよ。
…でも、もし自分がこのキャラだったらこうする…じゃなくて、それすら考えなくていいほどそのキャラに成れたら…私は最高な気分になるよ。"






これを言われた時、俺っちはあんまりよくわかっていなかった。
でも、由井サンの稽古を見ていたら…なんとなくわかる気がした。






今俺っちの目の前にいるのは確かに由井サン。
けど、由井サンであって由井サンじゃない気がする。
…ぶっちゃけ、俺っちも自分が今何言ってるのわかってないっスけど。





由井サンの芝居を見るたび、自分もこうなれれば、なんて考えてしまう。







『…ねぇ、七尾くん。』





「ハイ！なんスか！……って、ええええ？！」





『しーっ、皆んなが寝てるから静かにね？』







ぼんやりと考え事をしていると、いつの間にか俺っちの目の前に由井サンが来ていた。






「なっ、なんでバレたんスか？！」





『なんでって…最初に見に来てた日から気づいてたよ？いつ話しかけてくるかなぁと思ってたけど…しびれ切らしちゃった。』






「すみませんっス！！！俺っち…覗き見するつもりでは決して！！」







由井サンは、俺っちをみてくすくすと笑った。
その顔にまた見惚れる。






『いいよ、また見においで？…でも、2人だけの秘密だよ？』






…うわぁ、狡い。

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