497:ギャルと南国の園 ページ47
____。
渋谷駅。
いつもなら人で溢れかえっているコンコースが、今やシャッター街だ。
ここには、何百何千の人々がそれぞれの時間を忙しなく過ごしていたはず。
なのに、今は自分一人しか居ない。
肉の焦げた匂いが漂う。
「…」
ため息のひとつぐらいついてやりたくなったが、辞めとこう。
今無駄な呼吸をするのはよしたい。
呼吸を浅くするだけでも、肺が燃えるような痛みを覚えるからだ。
半身焼け爛れた七海建人は静かに渋谷駅構内を歩く。
いつものように鉈を片手に、道を阻もうものなら今日は誰彼構わず叩き切っていた。
「Aさんとの最後の会話、やっぱり思い出せないな」
長い階段を降りながら呟く。
「あの人、生きてるだろうか」
今日は独り言が多いな。
「生きてる、か。ムカつく顔を引っ提げて、馬鹿みたいに登場するんです。あの人は」
思わず笑いが零れる。
馬鹿みたいに底なしに明るくて、規格外な先輩。
鬱陶しくて、七海、七海と喧しくベタベタ引っ付き呼んでくる。
その日の気分で生きていて、静かになったと思ったら寝ている。あの人が静かなのは、寝てる時ぐらいなのだ。
南国みたいな人だな、あの可借夜Aという人は。
「…、」
階段を降りきると、そこには自分を歓迎するよう沢山の呪霊が待ち構えていた。
揃いも揃って、本当に待ってたかのように自分を見ている。
これには、わざとセーブしていた筈のため息も虚しく、いつも以上に長く気だるい息が漏れ出た。
嫌になるな、本当。
「マレーシア…」
そうだな。
「マレーシア…クァンタンがいい」
南国の地でゆっくり過ごして、買って手をつけてない本達を海辺で読むんだ。
今までの時間を取り戻すようにゆっくりと。
私は、南国のようにはなれないから。
いや、違う。
私は今、伏黒君やAさんを助けに行こうとしていて、それで。
真希さん…直毘人さんは?
あの二人はどうなった?
ほら、さっきまで一緒に居ただろう。
疲れた。
疲れたな。
どうして、Aさんは疲れないんだろう。
何度も地獄の底に沈められても、あの人は毎回戻ってくる。
その度に力と希望を味方につけて戻ってくる。
希望。
あの人のそういう所を見ると、希望が湧いてくる。
だけどもう、疲れた。
機械的に、作業的に。
鉈を振るい呪霊達を一掃する。
考える暇を与えたくない。
目の前にあるものを、ただ切る。それだけだ。
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プルメリア - ありがとうございます!頑張りますね! (2023年1月9日 7時) (レス) @page5 id: 6b30db01b5 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - プルメリアさん» 出来てますよ…!多分、宿儺のやつですかね…?まだ中身を確認していないので、あれですが投稿自体は出来てますよ…! (2023年1月8日 20時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
プルメリア - えっと、あの、忙しかったらいいです!ただ、きちんと投稿できているかだけ...お願いします... (2023年1月8日 20時) (レス) id: 6b30db01b5 (このIDを非表示/違反報告)
プルメリア - 私、試しに投稿してみたんですが...きちんと投稿できているか心配でして。少し確認してくれませんか? (2023年1月8日 20時) (レス) id: 6b30db01b5 (このIDを非表示/違反報告)
プルメリア - 本当に嬉しいです! (2023年1月8日 14時) (レス) id: 6b30db01b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2022年11月27日 22時